米財務省、2024年CFIUS報告書を公表、安全保障上懸念ある取引は緩和措置より阻止する傾向に

(米国)

ニューヨーク発

2025年08月12日

米国財務省は8月6日、対米外国投資委員会(CFIUS)の活動に関する2024年の報告書外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますを公表した。安全保障上懸念のある取引は、緩和措置を講じて認めるよりも、阻止する傾向にあることがわかった。

CFIUSは、外国から米国への投資が安全保障に脅威をもたらすかどうかを審査する省庁横断の委員会だ。投資内容によっては、CFIUSへの事前申請が義務付けられているが、それ以外は任意とされる。直近では、日本製鉄によるUSスチールの買収審査が注目を集めた(2025年6月19日記事参照)。

2024年の報告書によると、簡易的な申告(declaration、注1)は116件で、2023年の109件より増加したものの、2021年(164件)や2022年(154件)と比較すると、低い水準で推移した。CFIUSの詳細な審査が伴う届け出(notice、注2)は209件で、こちらは2023年の233件から減少した。2021年は272件、2022年は286件だったため、全体的に減少傾向にある。

企業の国籍別では、簡易的な申告で、日本(16件)、カナダ(11件)、フランス、英国(ともに9件)、ドイツ(8件)が上位だった。届け出については、中国(26件)、フランス(25件)、日本(24件)、アラブ首長国連邦(UAE、21件)、シンガポール(14件)が上位だった。申告と届け出を合計して産業分野別でみると、「コンピュータシステム設計・関連サービス」(35件)、「発電・送電」(21件)、「建築・工学・関連サービス」「ソフトウエア出版」(ともに20件)で多かった。

報告書によると、2024年に審査した取引のうち、大統領による禁止命令が出た取引は2件あった。1件は、ジョー・バイデン前大統領が2024年5月に出したもので、マインワン・クラウド・コンピューティング・インベストメントが2022年に購入したワイオミング州の施設の売却命令とみられる。同施設が米軍基地と近接していたことと、購入施設の特殊設備が安全保障上の懸念に該当した。同社は、最終的には中国人が所有する企業とされる(2024年5月14日記事参照)。

また、首都ワシントンの政策動向に詳しいコンサルタントが報告書を分析した結果によると、2024年にCFIUSが審査した取引のうち、緩和措置を適用した割合は10%未満だった(注3)。2022年と2023年の半数程度の水準で、2015年以降で最も低いという。CFIUSが安全保障上懸念のある取引に対して緩和措置を講じて認めるのではなく、阻止する傾向にあることを示唆している。なお、ドナルド・トランプ大統領は2月に発表した「米国第一の投資政策」で、敵対国からの米国投資に対する「リスク緩和」合意の停止を掲げている(2025年2月25日記事参照)。こうした傾向がトランプ政権下で継続されるか注目される。

(注1)2018年に成立した外国投資リスク審査現代化法(FIRRMA)で新設した申請の種類で、申請者が投資案件の概要を原則5ページ以内にまとめて提出し、CFIUSは受理してから30日以内に審査を終え、申請者に追加の行動の要否を伝えるプロセス。

(注2)CFIUSは届け出案件について、第1段階として45日以内に審査(review)を行い、その間に安全保障上の懸念が解決しない場合は、第2段階としてさらに45日間(ただし、15日間の延長可)の調査(investigation)を行う。調査を経て脅威を認定した場合は大統領に勧告を行い、大統領はそこから15日以内に取引を阻止するか否かを判断する。ジェトロの調査レポート「米国の経済安全保障に関する措置への実務的対応」も参照。

(注3)CFIUSによる審査の過程で、取引当事者が安全保障上のリスク緩和措置を講じることで取引が認められる場合がある。

(赤平大寿)

(米国)

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