米最高裁のIEEPA関税の判断、早ければ年内に、還付手続きの行方に注目
(米国、世界)
ニューヨーク発
2025年09月17日
米国最高裁判所は9月9日、国際緊急経済権限法(IEEPA)に基づく関税措置を巡る訴訟について、2025年秋から審理すると発表した。早ければ同年内にも判決が出る可能性がある。仮にIEEPA関税が無効と判断された場合は、既に支払われた関税の還付手続きが焦点の1つとなる。
今回対象となっている追加関税措置は、全ての国に10%の関税を課すベースライン関税と、米国の貿易赤字額が大きい相手国・地域に設定した相互関税、合成麻薬フェンタニルや不法移民の流入阻止を目的としたメキシコ、カナダ、中国に対する10~35%の追加関税だ。
米国では、関税を課す権限は憲法上、連邦議会が有している。ただし、貿易相手国による不公平な慣行への対処など、特定の場合に限ってのみ、関税を課す権限を大統領に移譲する法律が制定されている。そのため、IEEPAが全ての国・地域からの輸入品に対して、無制限に関税を課す権限を大統領に移譲しているかどうかといった点が審理され、一審と二審ではともに、無制限の権限は与えていないと判断した。また、IEEPAの条文には「輸入を規制する」との文言はあっても、「関税を課す」とは明記していないため、IEEPAに基づき関税を課せるのかといった点も議論になっていた(2025年9月1日記事参照)。
最高裁は今回、IEEPA関税について審理することを認め、司法省に対して、関税措置は合法だとする意見書を9月19日までに提出するよう求めた。原告による反論は10月20日までに、司法省による最終反論は10月30日までに提出するよう求めた。口頭弁論は11月3~7日に行われる予定だ。このスケジュールに従った場合、早ければ2025年内にも判決が出る可能性がある。なお、IEEPA関税は最終判断が出されるまでは継続される(2025年6月12日記事参照)。
最高裁の判決の見通しについて、首都ワシントンの通商弁護士は「違憲との判断が出る可能性は50対50」との見解を示している(注)。そのほかの専門機関はおおむね55~60%程度の確率でIEEPA関税は無効と判断されると予測しており、予測は拮抗(きっこう)している。
最高裁でIEEPA関税が無効と判断された場合、政府がこれまでに徴収した関税の還付が焦点の1つとなる。フェンタニルの流入防止を目的としたIEEPA関税は2月から始まったほか、相互関税は8月から再開しており、既にばく大な関税が支払われている。財務省は9月11日、8月の関税収入が過去最高の301億ドル(前年同月比4倍)に達したと発表している(政治専門紙「ポリティコ」9月11日)。前出の通商弁護士は還付手続きについて「関税が無効と判断されれば、当然、政府には返還義務が生じる。ただし、金額がばく大なため、裁判所が返還手続きの仕組みを構築するよう指示する場合もある。現在はどのような手続きになるか全くわからないが、例えば、将来支払う関税を相殺する『クレジット制度』のような仕組みもあり得るかもしれない」と述べている。なお、通常の還付手続きは輸入者が申請する。従って、現状では、今後還付手続きが設けられた場合に備え、通関に使用した書類を保管しておくことが重要となる。
(注)筆者によるインタビュー(9月16日)に基づく。
(赤平大寿)
(米国、世界)
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