米連邦控訴裁、一審の判断を支持しIEEPA関税を違憲と判断
(米国)
ニューヨーク発
2025年09月01日
米国の連邦巡回区控訴裁判所は8月29日、国際緊急経済権限法(IEEPA)に基づく追加関税措置を違憲と判断した。一審にあたる国際貿易裁判所(CIT)も2025年5月に、IEEPAに基づく追加関税措置は違憲と判断していた(2025年5月30日記事参照)。ただし、最高裁までもつれ込むとみられ、追加関税措置は当面、継続する見通しだ。
今回対象となっている追加関税措置は、全ての国に10%の関税を課すベースライン関税、米国の貿易赤字額が大きい相手国・地域に設定した相互関税、フェンタニルや不法移民の流入阻止を目的としたメキシコ、カナダ、中国に対する10~35%の追加関税だ。なお、1962年通商法第232条を根拠とする自動車・同部品や鉄鋼・アルミニウム・銅製品に対する関税は本判決の影響を受けない。
関税を課す権限は、憲法上、連邦議会が有している。だが米国では、貿易相手国による不公平な慣行への対処など、特定の場合に限ってのみ、関税を課す権限を大統領に委譲する法律が制定されている。そのためCITは、IEEPAが全ての国・地域からの輸入品に対して無制限に関税を課す権限を大統領に委任しているかどうかを審理し、無制限の権限は与えていないと判断した。控訴裁も今回、相互関税とIEEPAフェンタニル関税は、「範囲・金額・期間のいずれも無制限である。これらの関税は米国への輸入品ほぼ全てに適用され、絶えず変動する高率で、米国関税分類番号(HTSコード)で定められた税率を超え、期間制限もない」とし、「IEEPAが大統領に委任した権限の範囲を超えている」と結論付けた。11人の判事のうち、7人が支持した。ただし、控訴裁は10月14日まで今回の判決の執行を猶予するとした。さらに、同期間中に原告・被告のいずれかが最高裁判所に上告した場合は、最高裁の判断が出るまで執行を猶予するとも定めた。
今回の判断に対して、米国通商専門誌「インサイドUSトレード」(8月29日)は、フェンタニルの流入阻止や貿易赤字を理由にした緊急事態宣言に基づく追加関税措置が、大統領に法的権限がなかったと宣言されたことから、「トランプ政権にとって注目すべき敗北を意味する」と伝えた。
一方で、ドナルド・トランプ大統領は同日、「全ての関税は依然として有効だ」「もしこれらの関税が撤廃されれば、国家にとって完全な災害だ」「関税こそが労働者を助け、優れた米国製品を生産する企業を支える、最良の手段であることを肝に銘じるべきだ」と自身のSNSに投稿した。パム・ボンディ司法長官は同日、SNSで最高裁に上告すると表明しており、追加関税措置は当面、継続されるとみられる(注1)。米国の通商政策に詳しい法律事務所によれば、最高裁による判決は2026年になる見込みだ。
なお、仮に最高裁でIEEPA関税が違憲と判断された場合でも、トランプ政権は、1974年通商法122条や同301条、1962年通商拡大法232条などを用いて追加関税措置を継続するとみられている(注2)。
(注1)控訴裁は、審理が続く間はIEEPAによる追加関税措置の継続を認める判断をだしている(2025年6月12日記事参照)。
(注2)大統領権限による追加関税を課すことができる法律はジェトロのウェブサイト(350KB)を参照。これらのうち、複数の追加関税措置は、WTO違反になるとみられる(2025年6月24日付地域・分析レポート参照)。
(赤平大寿)
(米国)
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