米連邦控訴裁、最終判断出るまでIEEPA関税の継続認める

(米国)

ニューヨーク発

2025年06月12日

米国の連邦巡回区控訴裁判所は6月10日、国際緊急経済権限法(IEEPA)に基づく追加関税措置について、審理が終わるまで継続することを認める判断PDFファイル(外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)を示した。口頭弁論は、IEEPAに基づいて課されている相互関税措置の適用停止期限の7月9日(2025年4月11日記事参照)よりも後の同月31日に行う。

米国の国際貿易裁判所(CIT)は5月28日、IEEPAに基づき、全ての国に10%の追加関税を課すベースライン関税、米国の貿易赤字額が大きい相手国・地域に設定した相互関税、合成麻薬フェンタニルや不法移民の流入阻止を目的としたメキシコ、カナダ、中国に対する10~25%の追加関税は違法との判断を出した。その後、政権の上訴を受け、控訴裁は翌29日、CITの判断の一時的な停止と、当事者に対して6月9日までに意見書の提出を命じた(2025年5月30日記事参照)。

控訴裁は今回、それぞれの意見書を検討した結果、「当事者の権利を最終的に決定するのではなく」(注1)、訴訟が進行する中で衡平を調整する「衡平の比較(balance of equities)」の考え方に基づき、現在の追加関税措置の継続を認めると判断した。また、裁判官全員で審理すべき(en banc)、特別な重要性を有する問題を含むとも判断した。米国通商専門誌「インサイドUSトレード」(6月10日)によると、通常、控訴裁では3人の判事で判断するが、今回は同控訴裁に在籍する民主党指名判事8人と共和党指名判事4人の計12人で審査されることになる(注2)。

なお、この事案は最高裁の判断にもつれ込む可能性が高いとみられている。米国の通商法に詳しい法律事務所によると、控訴裁が審理を急ぐ場合、9月末ごろに判決が出ると予測される。その後、最高裁への上訴は90日以内に行う必要があるが、敗訴側が審理を再開するため、早期に上訴する可能性がある。こうした状況になれば、今回の事案は2026年に審理され、現在から約1年後に判決が出ると推測できるという。

米国には、追加関税を課す根拠法としては、既に利用されている1962年通商拡大法232条や1974年通商法301条のほか、巨額かつ重大な国際収支赤字に対処するため大統領が15%を超えない範囲の輸入課徴金などを、150日を限度に賦課できる1974年通商法122条、外国が米国に不利益をもたらす差別待遇を採用していると大統領が認定した場合に当該国からの輸入に対し最大50%の追加関税を賦課できる1930年関税法338条などがある(注3)。仮にIEEPA関税が最終的に違法と判断された場合、トランプ政権はこれらの異なる通商法を利用して追加関税措置を講ずるとの指摘がある。

(注1)政権が訴える、IEEPAに基づく相互関税などの措置が適法だと認めたわけではないとの意。

(注2)ただし、共和党が指名した判事1人は9月まで職務停止状態にあり、それまでは同判事は審理に参加できない。

(注3)米国の法律事務所によると、通商法122条、関税法338条に基づいて関税を課した大統領はこれまでにいない。

(赤平大寿)

(米国)

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