欧州委のフォン・デア・ライエン委員長、一般教書演説で外交・防衛分野での域内の結束を求める

(EU、米国)

ブリュッセル発

2025年09月11日

欧州委員会のウルズラ・フォン・デア・ライエン委員長は9月10日、欧州議会本会議で2024年12月の再任後初となる一般教書演説を行った(プレスリリース外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)。一般教書演説は、今後1年間の欧州委の活動方針を表明するものだが、冒頭は外交や防衛の話題に終始。ウクライナやガザ情勢など地政学的に難しい選択を迫られる中で、今こそが「欧州独立の瞬間」でなければならないとし、意見の不一致が目立つ加盟国や欧州議会に対し結束を求めた。

他方で、トランプ米政権への対応については、左派や極右などが強く非難する米国との関税合意(2025年8月25日記事参照)に関し「疑いなく最善の合意」と擁護しつつ、環境やデジタル分野の規制についてはEUが独自で決定する問題だと強調した。

新たな目立った産業政策はなし

EUの最優先課題である域内産業の競争力強化については、競争力コンパス(2025年2月6月記事参照)などで今後発表予定の政策が既に示されていることもあり、目新しい政策の発表はなかった。クリーン産業ディール(2025年3月4日記事参照)についても、バッテリーを引き合いに出し(2025年3月13日記事参照)、クリーンテックの域内生産の強化に向けた財政支援のほか、既にネットゼロ産業法(2025年5月29日記事参照)で導入されている、EU域内製を優遇する「メード・イン・ヨーロッパ」を公共調達において本格的に導入する方針をあらためて表明した。

同様に、自動車産業においても、「メード・イン・ヨーロッパ」を重視する姿勢を鮮明にした。脱炭素化に貢献するのであれば採用する技術を問わないとする技術中立の観点から、2035年からの内燃機関を搭載した新車の原則販売禁止(2023年3月30日記事参照)の見直しを進めているとしつつ、あくまで主軸を担うのは電気自動車(EV)であると強調。中国製EVに対抗すべく、産業界と協議を進めつつ、域内製の安価な小型EVの普及を目指す「手頃な小型車イニシアチブ」を提案することを明らかにした。

エネルギー政策については、ロシア産天然ガス依存から脱却(2025年6月20日記事参照)すると同時に、域内で自活できる再生可能エネルギーを増やす方針を堅持。加えて、ベースロード電源として、原子力を活用する姿勢を明確にした。欧州グリーン・ディールについては、既存の目標を維持すると述べるにとどまった。

(吉沼啓介)

(EU、米国)

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