欧州委、米国との関税合意に関する共同声明を評価

(EU、米国)

ブリュッセル発

2025年08月25日

欧州委員会は8月21日、同日発表した米国との通商協議を通じた合意に関する共同声明外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます2025年8月22日記事参照)は公平で相互に利益をもたらす枠組みであり、両国の貿易と投資の安定性と予見可能性を回復する双方のコミットを示すものと評価した(プレスリリース外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)。

交渉を担当した欧州委のマレシュ・シェフチョビチ委員(通商・経済安全保障、EU機構関係・透明性担当)は、EU原産の医薬品や半導体、木材を含む大部分の製品の関税率が15%を超えて適用されない合意条件は他国に比べてよいと強調した。一般関税率(MFN税率)に15%が加算されることはなく、現状15%以上の関税率に追加関税が課されることもない。米国は9月1日からEU産のコルクなど入手困難な資源や航空機・同部品、ジェネリック医薬品・同原材料などはMFN税率のみの適用、つまり、関税率はゼロまたはほぼゼロとなり、今後も双方で協議の上、関税撤廃対象を拡大していく予定とした。自動車・同部品に関しては、EU側で全ての米国製の工業製品に対する関税を撤廃した後に、米国側が15%に引き下げることで、EUの自動車産業の競争力を維持することができるとした。

共同声明には、森林破壊防止のためのデューディリジェンス義務化規則(EUDR、2025年4月17日記事参照)、炭素国境調整メカニズム(CBAM、2025年6月25日記事参照)、企業持続可能性デューディリジェンス指令(CSDDD、2025年3月7日記事参照)に関する記載も含まれる。欧州委は米国関係者と意見交換を行うが、いずれも企業の負担を軽減するためのオムニバス法案の一環としての取り組みで、米国のみを対象とした特別措置はないとした。

エネルギー安全保障の観点では、EUは2028年までの3年間で天然ガス、石油、核燃料など総額7,500億ドル相当を米国から購入する。米国は既にEUにとって最大のエネルギーパートナーの1つで、液化天然ガス(LNG)と石油については、第1の輸入相手国だ。EUは引き続き2024年にロシアから化石燃料を220億ユーロ規模、核燃料などは7億ユーロ規模輸入しており、同国への依存度を軽減すべく、米国からの輸入を増やすとしているが、脱炭素と気候中立に向けた取り組みには影響しないとしている。米国のシンクタンクのエネルギー経済・財務分析研究所(IEEFA)によると、2024年のEUの石油・石炭とLNGの輸入額は合計3,150億ユーロ、うち米国からは650億ユーロだ。IEEFAは今後3年間、米国から年2,500億ドル相当のエネルギーを輸入する場合、EUのエネルギー輸入総額の約7割を米国が占めることになるとして、単一の供給国への依存の高まりや温室効果ガス(GHG)排出量の削減目標達成へのリスクを指摘している。

(薮中愛子)

(EU、米国)

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