欧州委、ネットゼロ産業法の強靭性要件に関する実施規則案を発表、中国製再エネ技術が対象に

(EU、中国)

ブリュッセル発

2025年05月29日

欧州委員会は5月23日、温室効果ガス(GHG)排出ネットゼロ実現に貢献する技術(ネットゼロ技術)のEU域内での生産能力拡大を支援するネットゼロ産業法(2024年2月14日記事参照)の実施規則案を発表した(プレスリリース外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)。欧州委が今回発表したのは、再生可能エネルギー(再エネ)整備の競争入札の事前資格審査基準と選定基準に関するものだ。これらの基準には、域外国への再エネ技術の依存を一定以下に抑えることを目的とした強靭(きょうじん)性要件が含まれる。脱却を進めるロシアへのエネルギー依存(2025年5月9日記事参照)を教訓に、再エネへの転換(2023年9月20日記事参照)で中国製再エネ技術への極端な依存を避ける狙いがあるとみられる。

ネットゼロ産業法は、加盟国が実施する再エネ整備の競争入札で価格以外の評価基準に含めるべき項目として、持続可能性と強靭性への貢献を明記している。特定の域外国製が域内シェア50%を超える最終製品に関し、特に強靭性への考慮が必要になるとしているが、この点について、実施規則案は最終製品、あるいは一定以上の主要部品が当該域外国製の場合に入札を認めないことを明確にした。主要部品の域外シェアが一定を超える場合についても規定を設けている。

その上で、欧州委は強靭性要件の対象となる最終製品、主要部品の一覧に関する実施規則案を策定し、最終製品、主要部品ごとに原産国(域外国)の域内シェアを発表した。特定の域外国の域内シェアが50%を超えた製品は、太陽光発電(PV)システム、PVモジュール・セル、PVインバーター、PVウエハー、風力タービンの永久磁石、バッテリーパック・モジュール・セル、バッテリーのアノード活物質で、いずれも中国製だ。なお、域内シェアは毎年更新される。

加盟国は2025年12月30日から、再エネ整備の競争入札の最低3割、あるいは最低6ギガワット(GW)以上について、こうした基準を適用することが求められる。ただし、ネットゼロ産業法は、これらの基準の適用によって予定価格が15%以上値上がりする場合、これらの基準を適用しないことを認めている。特定の域外国のシェアが50%以上を占めると指定された最終製品、主要部品で中国製のシェアの多くは80%近く、あるいはそれ以上となっていることから、実際に強靭性要件がどの程度考慮されるかは未知数だ。

このほか、欧州委はネットゼロ産業法の対象となる主要部品の一覧、許認可手続きなどで優遇を受けられる「戦略的ネットゼロ事業」の認定基準に関する実施規則案も発表している。

(吉沼啓介)

(EU、中国)

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