グリア米USTR代表、通商政策の理念について講演、「生産経済」への移行を強調
(米国)
ニューヨーク発
2025年09月05日
米国通商代表部(USTR)のジェミソン・グリア代表は9月3日、全米保守主義会議で講演した。トランプ政権発足以降、関税措置に関連して行った通商交渉の背景にある理念を説明した。
グリア氏は冒頭、2001~2009年に大統領を務めたジョージ・ブッシュ氏が大統領選挙立候補の際に「貿易はわが国の最も深い利益に奉仕し、中国国民のより自由な社会への希望を前進させると信じる」と述べたことを引き合いに出し、「いわゆる自由貿易は、中国にも他国にも民主主義をもたらさず、平和にもつながらなかった」と批判した。その後、「自由貿易への過度の依存は生産基盤を弱体化させ、債務社会を生み出す」と続け、通商政策の目的は「できるだけ多くの通商協定を締結することや、効率性を最優先することではない。米国人労働者と家族、保守的な社会を支えることであるべきだ」と説いた。そして、消費そのものを目的とするのではなく、生産を担う中間層を中核とする「生産経済」を創り上げるべきと主張した。
一方で、現状は「自らを保守派と称する者を含む指導者たち」が1990年代以降、生産経済を放棄し貿易に関するルールをWTOに委ねたことから、「生産者の国から債務者の国へと変貌した」「企業は(米国の)貿易赤字を無視した」 と問題視した。その上で、生産経済をあらためて創り出すためには、「主権」「連帯」「均衡」が重要だと主張した。
主権については、「敵対国に医薬品、重要鉱物、半導体を依存する国は真の独立国と言えない」とし、通商政策を含め「米国第一」であるべきと主張した。連帯については、製品に支払う代価が多国籍企業を潤すだけではないと国民が認識するためにも、製造業を米国内に維持することが重要だと強調した。均衡については、生産経済の根幹だとし、米国の巨大な消費力が通商交渉で影響力を発揮する要因だと認めつつも、消費財の多くが外国産であり、その結果生まれる貿易赤字が課題だと指摘した。貿易赤字によって流出したドルは「投機や債務、あるいは米国資産の買収というかたちで戻ってくることが多く、生産投資やグリーンフィールド投資ではない」と批判した。トランプ政権は、こうした不均衡を是正するために通商交渉を行っているとし、各国は米国による「関税引き上げを受け入れつつ、自らの関税・非関税障壁を削減」し、「米国への新規工場投資、数十億ドル規模の米国産品の購入、経済・国家安全保障面での米国との協調」を進めていると成果を強調した。グリア氏は、こうした「双方の関税撤廃という従来型協定ではない」新しい状況を、「ターンベリー・システム」と呼び(注1)、時間はかかっても同システムを正式に導入していく重要性を強調した。
グリア氏はこれまでも、WTO体制から脱却し新しいシステムを構築する重要性を訴えている。なお、トランプ政権が8月末に発表した、国際機関への予算拠出停止に関する声明では当初、WTOへの分担金拠出を停止すると記されていたが、その後、削除されている(2025年9月3日記事参照、注2)。米国通商専門誌「インサイドUSトレード」(9月3日)によれば、WTOに関する記載の削除について、ホワイトハウスも国務省も回答を控えており、米国とWTOの今後の関係は、依然として不透明なままとなっている。
(注1)EUとの合意(2025年7月29日記事参照)が行われた、英国スコットランドのターンベリーに由来する。
(注2)OECDへの拠出に関する記載も削除されている。
(赤平大寿)
(米国)
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