関税交渉の先にある、米国の輸出管理を中心とした経済安保政策の行方
(米国)
ニューヨーク発
2025年07月04日
米国が設定した相互関税の適用停止期限の7月9日が迫り、各国は交渉を加速している。日本も6月末に7度目の交渉を行った(2025年6月30日記事参照)。7月2日にはドナルド・トランプ大統領が自身のSNSに、ベトナムと合意に達したと投稿した。現在の通商上の関心事は関税に集中しているが、中国が米国の追加関税への対抗措置として輸出管理を強化したように(2025年6月13日記事参照)、経済安保に関連する措置を巡る議論についても、注視していく必要がある。しかし、トランプ政権2期目の経済安保政策の全体像はまだ見えてこない。
トランプ政権1期目では、中興通訊(ZTE)の輸出特権が否認され、華為技術(ファーウェイ)がエンティティ・リスト(EL)に追加されたため(注)、輸出管理が大きな注目を集めるようになった。さらに、バイデン前政権下では、先端半導体を中心に対中輸出管理が強化され(2025年1月14日記事、2025年5月15日記事参照)、輸出管理が経済安保上、米国の対中政策の中心となった。ただし、トランプ政権2期目の輸出管理をはじめとする経済安保政策の全体像はまだ見えてこない。商務省産業安全保障局(BIS)のジェフリー・ケスラー次官は輸出管理規則(EAR)の厳格化に取り組んでいると述べたものの(2025年6月17日記事参照)、詳細は依然として不透明だ。
こうした状況下、ジェトロがバイデン前政権高官にヒアリングしたところ、トランプ政権の輸出管理政策は、2つの両極端なアプローチがあり得るとの指摘が聞かれた。1つは、中国など相手国の輸出管理強化を懸念して、そこまで強い輸出管理政策を打ち出さないソフトなアプローチだ。もう1つは、相手国の対抗措置を気にせず、輸出管理強化のエスカレーションもいとわない強硬なアプローチだ。BISでは、トランプ政権2期目の発足後、多数の職員が退職あるいは解雇されたため、複雑な規制を策定できないとも指摘されるが、極端に強硬な輸出管理規制を設けたい場合には、単に全てを禁止するルールを描けばよく、それほど複雑な規制にはならないという。
そのほか輸出管理を巡っては、自由貿易協定(FTA)のような経済安保協定が今後、他国と締結される可能性があるとも指摘されている。経済安保協定には、必ずしも輸出管理の強化だけでなく、例えば、相手国の執行能力を上げるための米国によるキャパシティービルディングなども含まれるという。また、過剰生産に対処する規定や、相手国に対米外国投資委員会(CFIUS)と同等の投資審査メカニズムを設ける規定、相手国を米国の情報通信技術・サービス(ICTS)保護規則に準拠させる規定(2025年6月11日付地域・分析レポート参照)など、経済安保の観点から幅広い内容が含まれる可能性がある。2026年7月までに予定されている米国・メキシコ・カナダ協定(USMCA)の見直しを通じて、経済安保条項が設けられるとの指摘もある。
(注)輸出特権を否認された企業は、米国輸出管理規則(EAR)に基づき、米国製品(物品・ソフトウエア・技術)を米国から輸出・再輸出・みなし輸出することが禁じられる。ELは、米国政府が「米国の国家安全保障または外交政策上の利益に反する行為に携わっている、またはその恐れがある」と判断した団体や個人を掲載したリストで、それらに米国製品を輸出などする場合には、BISの事前許可が必要になる。ただし、多くの場合、「原則不許可」の審査方針がとられるため、実質的には輸出などができなくなる。
(赤平大寿)
(米国)
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