米国際貿易委、USMCA自動車原産地規則の経済的影響に関する報告書を発表

(米国、カナダ、メキシコ)

ニューヨーク発

2025年07月03日

米国の国際貿易委員会(ITC)は7月1日、米国・メキシコ・カナダ協定(USMCA)の自動車原産地規則(ROO)による米国経済への影響に関する報告書を発表外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますした。同報告書はUSMCA実施法で、2031年まで2年ごとに、大統領と連邦議会への提出が義務付けられている。初めての報告書は2023年に提出されており(2023年7月4日記事参照)、今回で2度目となる。

自動車のROOは、前身の北米自由貿易協定(NAFTA)に比べて、格段に厳しくなっており(2019年5月8日付地域・分析レポート参照)、USMCAを交渉したトランプ政権1期目の狙いは、サプライチェーンを可能な限り米国に回帰させることにあったといえる。

今回の報告書では、USMCAが発効した2020年7月1日から2024年末までの影響を分析した。前回同様、USMCAのROOが米国経済全体へ与えた影響は無視できる程度だとしたが、自動車産業には影響をもたらしたと分析した。具体的な影響として、米国の部品・材料メーカーの雇用、生産、売上高などを増加させた一方、米国の自動車メーカーの雇用、生産、売上高などはわずかに減少させたと推定した。

ROOが自動車産業の競争力に影響を与えた要因として、コスト、投資、製品差別化を挙げた。ROOを満たすため、調達のサプライチェーンを変更した結果、生産コストの増加をもたらしたと指摘した。米国の自動車製造業への投資については、2019年の279億ドルから2023年の878億ドルに増加した後、2024年に341億ドルに減少したと報告した。2024年に減少した理由には、インフレ削減法(IRA)や電動化、米国の通商政策の不確実性が要因となっている可能性があるとした。なお、各年の投資額にはROOに起因するものも含まれるが、大部分はIRAやアドバンスド・クリーンカーII(ACC II)規制など、電動化に関連した投資だとしている(注)。製品差別化への影響では、メーカーはモデル数を削減することでサプライチェーンを簡素化し、ROOに対応するための増加コストを相殺できるため、ROOがモデル数を制限する要因となった可能性があると指摘した。

米国製の自動車が占めるシェアは、カナダとメキシコ市場でほぼ変化がなかった一方、米国製部品についてはカナダで増加し、メキシコで減少したと報告した。

USMCAは、2026年7月に見直しを行うことが定められている。ドナルド・トランプ大統領は見直しで、中国などがメキシコを経由して自動車部品を無税で米国へ輸出することを防ぐルールを盛り込む、と過去に述べている(2024年10月15日記事参照)。また、米国はUSMCAの紛争解決パネルで敗訴した主要部品(コアまたはスーパーコア)の域内原産割合(RVC)の解釈について、「まだ合意に至っていない」としてパネル決定に従っていない(2024年7月3日記事参照)。見直しを通じて、これらの要件がROOに組み込まれれば、ROOは一層、厳格化されることになる。トランプ政権の関税措置に加え、USMCAの行方も、引き続き注視する必要がある。

(注)トランプ氏は気候変動に懐疑的で、電気自動車(EV)の普及施策にも消極的な態度を示している。トランプ政権2期目の発足以降、議会ではACC II規制を無効化する決議案が出されたほか(2025年5月7日記事参照)、IRAに基づく税額控除の見直しが定められた法案が審議されている(2025年7月2日記事参照)。

(赤平大寿)

(米国、カナダ、メキシコ)

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