米国際貿易委、USMCA自動車原産地規則の経済的影響を評価

(米国、カナダ、メキシコ)

ニューヨーク発

2023年07月04日

米国の国際貿易委員会(ITC)は6月30日、米国・メキシコ・カナダ協定(USMCA)の自動車原産地規則(ROO)による米国経済への影響に関する報告書外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますを発表した。

ITCは、主に貿易に関する事実認定を行う独立の連邦政府機関だ。今回の報告書はUSMCA実施法で大統領と連邦議会への提出が義務付けられており、USMCAが2020年7月に発効して以降、初めての提出となった。今後、2031年まで2年おきの報告が義務付けられている。USMCAは前身の北米自由貿易協定(NAFTA)に比べて、完成車の域内貿易が無関税となるためのROOが厳しい。具体的には、次の4点を満たす必要がある(2019年5月8日付地域・分析レポート参照)。

  1. 域内原産割合(RVC)が純費用方式(NC、注1)で75%以上
  2. 重要な自動車部品(コアパーツ)が全て域内原産品
  3. 完成車メーカーが購入する鉄とアルミニウムの7割が域内原産材料
  4. 直接工の賃金(時給)が16ドル以上の地域の付加価値が40%[乗用車・スポーツ用多目的車(SUV)]もしくは45%(ピックアップ)以上

USMCAの交渉を開始した米国のトランプ前政権の狙いは、賃金条件も含めてROOを厳格化することで、サプライチェーンを可能な限り米国に回帰させることにあったといえる。

ITCは今回、USMCAが発効した2020年7月から2022年12月までの影響を分析した(注2)。報告書は、ROOが米国のGDPおよび雇用全体に与えた影響は無視できるほど僅少と述べ、自動車産業に限定した特筆すべき点として、次のとおり指摘している(添付資料表1参照)。

  • 米国への自動車部品(エンジン、トランスミッション)の輸入を減少させ、これらの部品を生産する米国生産者の雇用、生産、収入、投資、利益を増加させた。
  • USMCA締結国のカナダとメキシコから米国への完成車の輸入台数を減らした(4,748台減)一方、そのほかの国からの輸入台数を増やした(1,125台増)。

全体的な傾向としては、ROOを満たすために重要部品の調達を域外から域内に切り替えるシフトが起きた。一方で、米国での完成車生産コストが上昇したため、域外からの完成車輸入が増加した。ITCは特に、カナダとメキシコで一部車種の生産コストが増え、場合によってはROOを満たせず特恵関税(注3)が適用されないことで、対米輸出において域外からの完成車との価格競争で劣後する結果になったと分析している。実際に、両国から米国への完成車の輸入については、USMCAの特恵関税率を使わない割合が年々増えている傾向にある(添付資料表2参照)。また、米国の自動車メーカーの中には、ROOを満たすコストが高くつくことから、カナダとメキシコへ輸出する完成車を域外で生産したものに切り替えることを検討しているメーカーも出てきているという。ROOの厳しさゆえに、全体で見れば、必ずしも米国政府が当初想定していた効果が起きていない実態が浮き彫りとなった。

(注1)FOB取引価額から利益を除いた総費用から、販売促進費、マーケティングおよびアフターサービス関連費用、使用料、輸送費および梱包(こんぽう)費ならびに不当な利子を減じた純費用(NC)を分母とし、純費用から非原産材料価額(VNM)を控除して残った付加価値が純費用の何%に相当するかで計算する方式。計算公式は以下のとおり。

RVC(%)=(NC-VNM)/NC×100

(注2)原産地規則の一部は段階的な施行の途中にあり、完全な施行は2027年からとなる。そのため、ITCは原産地規則の影響に関する完全な評価が可能となるのは2027年以降としている。

(注3)米国が乗用車輸入に課している最恵国(MFN)関税率は2.5%。USMCAのROOを満たせば、カナダとメキシコからの輸入は無関税となる。

(磯部真一)

(米国、カナダ、メキシコ)

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