米USTR、2024年の通商課題を報告、引き続き労働者の権利保護強調

(米国、中国、日本、メキシコ)

ニューヨーク発

2024年03月05日

米国通商代表部(USTR)は3月1日、「2024年の通商政策課題と2023年の年次報告」を公表外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますした。USTRのキャサリン・タイ代表は「経済政策の重点を中間層と労働者コミュニティーの強化に置くというバイデン政権のビジョンにとって、貿易は不可欠な要素」とした上で、「報告書にはこのビジョンを実現するための主要な成果と優先事項が記載されている」と報告書の位置付けを説明している(注1)。

USTRは2023年の主要な成果として、インド太平洋経済枠組み(IPEF)の貿易の柱(注2)の複数章で相当かつ実質的な進展を遂げたことや、「21世紀の貿易に関する米国・台湾イニシアチブ」の第1段階の協定に署名したこと(2023年6月13日記事参照)など、新たな通商枠組みでの協議の進展を挙げた。また、日本との重要鉱物サプライチェーン強化協定締結や(2023年3月29日記事参照)、EU、英国との重要鉱物協定の交渉開始など、サプライチェーンを強化・多元化し、電気自動車(EV)用バッテリー技術の普及を促進する取り組みを指摘した。さらに、米国・メキシコ・カナダ協定(USMCA)が定める「事業所特定の迅速な労働問題対応メカニズム(RRM、注3)」を通じて、公平な競争条件を整えることで米国の労働者の経済的利益を保護するほか、労働問題に直面したメキシコの労働者に労働条件の改善や賃金上昇などの具体的利益をもたらしているとして、その成果を強調した。

2024年の通商政策には、これまでの報告書と同様、「労働者中心の通商政策の推進」を掲げ、労働者の権利保護を優先課題の最初に記した。具体的には、RRMの効果的な執行やウイグル強制労働防止法(UFLPA)などを含む強制労働への対処を挙げ、米国は引き続き、世界中で労働者の権利を保護し、労働者の利益を改善するために、パートナー国や同盟国と協力するとした。このほか、脱炭素化の加速や米国農業の支援、サプライチェーン強靭(きょうじん)化などを優先課題に列挙した。

中国との関係を巡っては、不公正で非競争的な慣行を通じて市場をゆがめ、米国や同盟・パートナー国の労働者や企業に損害を与えているとした上で、これまでの報告書と同様に、「労働者中心の通商政策の原則に基づいて、包括的で現実的なアプローチを取る」と主張した。具体的には、インフラ投資雇用法(IIJA)やCHIPSおよび科学法(CHIPSプラス法)などに基づく国内投資による競争力強化、同盟・パートナー国との経済的威圧などを抑止するための協力などを挙げた。また、1974年通商法301条に基づく対中追加関税(301条関税)については、企業や労働者に及ぼし得る影響に注意を払っているとして、米国の経済的利益が確保されるよう対象を絞った適用除外措置を続けるとしつつ、関税措置の有効性を全面的に評価する見直し作業を継続しているとした(注4)。

(注1)USTRは1974年通商法に基づき、貿易協定に関する取り組みや政策方針について、毎年3月1日までに連邦議会に報告を行う。前年の報告書は2023年3月2日記事参照

(注2)IPEFでは、(1)貿易、(2)サプライチェーン、(3)クリーン経済、(4)公正な経済の4本柱の交渉目標が設定され、2023年11月に貿易を除く3本の柱で署名・実質妥結した(2023年11月17日記事参照)。最新動向はジェトロ特集ページも参照。

(注3)事業所単位で労働権侵害の有無を判定する手続きで、違反が認められれば、USMCAによる特恵措置の停止といった罰則が適用される。米国からメキシコに対するRRMは特に2023年以降、発動件数が増加し、対象分野が拡大している。最新事例は2024年2月21日記事参照

(注4)USTRは301条関税の期限を迎えた2022年9月、301条関税の見直しと見直し完了までの賦課継続を発表した。以降、2024年3月時点でも見直しは完了しておらず、関税賦課は継続している。301条関税の動向については2024年1月18日付地域・分析レポート参照

(葛西泰介)

(米国、中国、日本、メキシコ)

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