米アラバマ州のメルセデス・ベンツ工場、UAW加入のための投票実施を申請

(米国、ドイツ)

アトランタ発

2024年04月10日

全米自動車労働組合(UAW)は4月5日、メルセデス・ベンツのアラバマ州タスカルーサ工場で工場労働者の圧倒的多数が組合授権カード(注1)に署名したことを受け、同工場労働者が全米労働関係委員会(注2、NLRB)にUAW加入のための投票実施を申請したと発表外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますした。労働者側は5月上旬までの投票実施を希望しており、NLRBは早急に選挙日程を決定する見込みだ。

UAWが2023年11月29日に、米国で組合を持たない自動車メーカー13社(注3)で勤務する約15万人の労働者向けに、組合への加入を促すキャンペーンを開始して以降(2023年12月8日記事参照)、同工場のほか、フォルクスワーゲン(VW)のテネシー州チャタヌーガ工場、現代自動車のアラバマ州モンゴメリー工場、トヨタ自動車のミズーリ州トロイ工場で組合結成に向けた動きが発表されている(注4、2024年2月2日2024年2月7日2024年3月4日2024年3月12日記事参照)。対象の自動車メーカーで投票実施の申請に至ったのはVWのチャタヌーガ工場に続いて2例目で、VWのチャタヌーガ工場では4月17~19日に投票が実施される予定だ(2024年3月27日記事参照)。

また、UAWは本発表2日前の4月3日、同工場労働者に対するメルセデス・ベンツ側の積極的な反組合キャンペーンがドイツのサプライチェーン・デューディリジェンス法(注5)に基づく人権侵害だとして、メルセデス・ベンツ・グループをドイツで提訴したと発表外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますした。UAWによると、同工場では、組合結成阻止のための強制参加のミーティングが開催されるなど、組合組織化運動は経営層からの激しい反発に直面している。一方で、メルセデス・ベンツ・グループは「反組合」の疑惑を否定するとともに、経営層は労働者が十分な情報を得たうえで決断すること望んでおり、米当局にもこの問題を説明すると述べた(ロイター4月3日)。

UAWが米労働省に提出した報告書によると、UAWの組合員数は2023年に前年比3.3%減の37万人となり、2009年以来の最低水準になった(ロイター3月29日)。UAWがキャンペーンの対象となっている自動車メーカーすべての労働者を代表する権利を獲得できれば、UAWの組合員数と交渉力に大きな利益をもたらすとの見方もある(CNN4月5日)。

(注1)労働者が労働組合を交渉の際の代表として支持することを示す署名入りのカード。

(注2)従業員の団結権を保護し、労働組合を交渉代表とするかを決定する権限を与えられた独立連邦機関。

(注3)今回対象となっている自動車メーカーは、日系のトヨタ、ホンダ、日産、スバル、マツダ、韓国系の現代、欧州系のメルセデス・ベンツ、BMW、VW、ボルボ、米国電気自動車(EV)メーカーのテスラ、リビアン、ルーシッドの13社。

(注4)UAWは「30・50・70戦略」という方針をとっており、組合に加入していない工場の労働者の30%がUAW加入を求めるカードに署名すれば、それを公表している。また、50%の労働者が加入を希望すれば、UAWのショーン・フェイン会長や賛同者とともに集会を開き、この取り組みを宣伝するとしている。さらに、70%の労働者がUAWへの加入を希望し、全ての部署やライン、シフトでボランティア組織委員会が設置されると、UAWは当該企業に対し、組合結成の承認を求めるか、投票に持ち込むとしている。

(注5)ドイツでは、2023年1月1日からサプライチェーン・デューディリジェンス法(Lieferkettensorgfaltspflichtengesetz:LkSG)」が施行されている。同法は、ドイツを拠点とする一定規模以上の企業に対し、国内外の自身のサプライチェーンにおける人権および環境問題に関するデューディリジェンス実施を義務付けており、団結の自由の否定も禁止している。詳細はジェトロ調査レポート「ドイツ サプライチェーンにおける企業のデューディリジェンス義務に関する法律(参考和訳)(2022年5月)」参照。

(横山華子)

(米国、ドイツ)

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