WEF、南西アジアのリスクはエネルギー供給不足、景気低迷などと指摘

(バングラデシュ、インド、スリランカ、パキスタン)

調査部アジア大洋州課

2024年01月26日

世界経済フォーラム(WEF)は1月10日、スイスのダボスで開催された年次総会(2024年1月15日記事参照)に先立ち、最新の「グローバルリスク報告書(Global Risk Report)2024」(注1)を発表外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますした。

同報告書は、気候変動や、人口動態の分断、テクノロジーの加速、地政学的シフトといったグローバルリスクを形成する4つの構造的な力に注目し、今後2年間の最も深刻なグローバルリスクとして、誤報および偽情報、異常気象、社会の分極化、サイバーセキュリティー、国家間の武力紛争、経済機会の欠如、インフレ、非自発的移住、景気低迷、公害を挙げた。

同報告書では、南西アジア諸国〔インド、スリランカ、パキスタン、バングラデシュ(2024年1月26日記事参照)〕が今後2年間で直面する可能性があるリスク要因につき、次の特徴がみられた(添付資料表参照)。

  • インドを除く3カ国で景気低迷、エネルギー供給不足、インフレはいずれも高リスクとして認識されている。
  • バングラデシュ、スリランカでともにリスクとなっている公的債務については、政府債務の増加が民間セクターの信用の流れを鈍らせることで、投資の妨げとなり、銀行貸出金利の上昇も招くとされている。2022年に経済危機に陥ったスリランカでは、民間債権者との債務再編交渉や潜在成長率向上のための構造改革が実施される中、不安定な状態が続くと予測される(2024年1月23日記事参照)。
  • インドとバングラデシュの共通リスクの富や所得の不平等について、消費を支える中間所得者層の所得が停滞すると経済の拡大が鈍化し、社会の不安定化に伴って賃上げを要求する労働者の運動は激化すると考えられる。
  • パキスタンの「異常気象」は、2022年に同国を見舞った史上最悪レベルの大雨災害を受けてのものと考えられる(2022年8月30日記事参照)。
  • 今後2年間の最大のグローバルリスクでもある「誤報および偽情報」は、特にインドとパキスタンに顕著だった。今後、インド、パキスタンを含む多くの経済圏で約30億人が選挙を控えている中(注2)、国内外のアクターが社会的・政治的分断をさらに広げる目的で、誤報や偽情報の広範な利用や、それを広めるツールが新政府の正統性を損なう可能性があると指摘した。また、暴力的な抗議行動やテロ行為に発展する可能性についても懸念を示した。この点については、インド各紙が取り上げ、報道も多く見られている(「ザ・ウィーク」紙1月10日、「エコノミック・タイムズ」紙1月15日「イースト・モジョ」紙1月25日)。

(注1)2023年4~8月に実施した意識調査。1万1,000人を超える回答者(世界各国の専門家)が潜在的リスク36項目の中から、自国にとって最大の脅威となり得る5つのリスクを選んだ。

(注2)バングラデシュは1月7日に総選挙を実施済み(2024年1月9日記事参照)。

(寺島かほる)

(バングラデシュ、インド、スリランカ、パキスタン)

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