米ホワイトハウス、日本製鉄のUSスチール買収がCFIUS審査対象に成り得るとの声明発表

(米国、日本)

ニューヨーク発

2023年12月25日

米国のホワイトハウスは12月21日、国家経済会議(NEC)のラエル・ブレイナード委員長の、日本製鉄によるUSスチールの買収は安全保障上の懸念がないか審査対象に成り得るとの声明外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますを発表した。日本製鉄とUSスチールは12月18日に買収契約を締結したと発表していた(2023年12月19日記事参照)。

声明ではまず、ジョー・バイデン大統領の「外国企業による象徴的な米国企業の買収は、たとえそれが緊密な同盟国の企業でも、安全保障とサプライチェーンの信頼性への潜在的影響という点で、慎重な精査に値するとみられる」との考えを紹介した。これを踏まえてブレイナード委員長は、この買収が外国企業による対米投資が安全保障に与える影響を審査する対米外国投資委員会(CFIUS)の審査対象になりそうな取引にみえるとの見解を示し、「政権は審査結果を注意深く見守り、適切に行動する用意がある」と続けた。

大統領にはCFIUSの勧告に基づき、買収を差し止める権限が与えられている(注1)。大統領が買収を差し止めた例はこれまで6件ある。直近では、トランプ大統領(当時)が中国のIT企業の北京中長石基信息技術に対し、同社が2018年に買収した米国の同業のステインタッチの売却を命じた(2020年3月13日記事参照)。過去に大統領が差し止めた案件はいずれも中国企業が関係しており、日本企業が関係した例はない。ただし、住宅設備機器大手リクシルのイタリア子会社の中国企業への売却がCFIUSによる承認を得られなかった例がある(注2)。また、CFIUSの年次報告書によると、2022年に日本企業が審査対象となった件数は、簡易的な申告(declaration)で国別2位の18件(全154件)、詳細な審査が伴う届け出(notice)で国別5位の15件(全286件)と、いずれも上位に入っている(2023年8月1日記事参照)。

今回の買収を巡っては、米国の議会や労働組合からも懸念する声が出ている。ボブ・ケーシー上院議員(ペンシルベニア州)ら3人の民主党議員は12月19日、CFIUS議長を務めるジャネット・イエレン財務長官に、CFIUSによる審査を求める書簡外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますを送った。米通商専門誌の「インサイド・US・トレード」(12月22日)によると、これまでに懸念を表明した議員はケーシー議員らを含めて、民主党議員では4人、共和党議員では3人に上る。また、全米鉄鋼労働組合(USW)のデービット・マコール国際委員長はホワイトハウスの発表と同じ21日、USスチールの売却は「安全保障と重要なサプライチェーンに対するより大きな影響を判断するため『慎重な精査』に値するとのブレイナード委員長の声明と政権の評価を歓迎する」との声明外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますを出した。

一方で、この買収は、バイデン政権が唱える米国と同盟・友好国との間でサプライチェーンを多様化、強靭(きょうじん)化する、いわゆる「フレンドショアリング」に合致する投資とも考えられる。ラーム・エマニュエル駐日大使は買収契約締結発表日と同じ18日に、日本製鉄とUSスチールは「基幹産業である鉄鋼業界の未来を定め、強い絆を築いている。米日は過去4年間、互いに最大の投資国であり、本日の発表でその絆はさらに深まることだろう」と歓迎するコメントをX(旧ツイッター)に投稿している。他方、「史上最も労働組合寄り」と自負しているバイデン大統領は2024年の大統領選挙も見据え、労働組合への配慮も求められる。5月には、「デトロイト3〔ゼネラルモーターズ(GM)、フォード、ステランティス〕」との労使交渉で、全米自動車労働組合(UAW)がバイデン大統領への支持を保留している(注3)。2024年初から本格化する大統領選挙に向けて、バイデン大統領は難しいかじ取りを迫られそうだ。

(注1)CFIUSの審査プロセスや近年の権限強化などについては、2023年10月2日付地域・分析レポート参照。なお、一般的には、大統領による差し止めの前にCFIUSから勧告を受けた時点で、自主的に買収を取りやめるケースが散見される。

(注2)この件は直接的な対米投資案件ではないものの、当時の政権が米国の安全保障に影響があるとして審査したとみられる。詳細は公になっていない。

(注3)UAWと「デトロイト3」の交渉経緯については、2023年12月14日付地域・分析レポート参照。

(赤平大寿)

(米国、日本)

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