米財務省、対米外国投資委の2022年報告書公表、審査件数は過去最多を更新

(米国)

ニューヨーク発

2023年08月01日

米国財務省は7月31日、対米外国投資委員会(CFIUS)の活動に関する2022年の報告書を公表外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますした。

CFIUSは、外国から米国への投資が安全保障に脅威をもたらすかどうかを審査する省庁横断の委員会だ。投資案件の種類によっては、CFIUSへの事前申請が義務付けられている場合があるが、それ以外は任意の申請となっている。2022年の報告書によると、簡易的な申告(declaration、注1)が154件(前年164件)、CFIUSの詳細な審査が伴う届け出(notice)が286件(前年272件)で、合計の審査件数が前年を超えて過去最多となった。企業の国籍別では、簡易的な申告で、カナダ(22件)、日本(18件)、ドイツ(13件)、韓国(11件)、シンガポール、フランス(ともに9件)が上位になっている。届け出については、シンガポール(37件)、中国(36件)、英国(18件)、カナダ(17件)、日本(15件)、韓国、フランス(ともに14件)が上位に入っている。申告と届け出を合計して産業分野別でみると、研究開発など「専門・科学・技術サービス」(91件)、半導体など「コンピュータ・電子機器製造」(45件)、発電など「公益事業」(42件)、衛星通信など「通信」(31件)、ソフトウエア発行など「出版業」(28件)、航空機など「輸送機器製造」(22件)で申請件数が多い。財務省は、約6割の案件を定められた審査期間内で承認したと明らかにしている。

財務省はこのほか、2022年の特筆すべき点として、未申告取引に対する捜査の強化を挙げている。CFIUSは、完了した取引であっても、安全保障上の脅威が疑われる案件に対して事後的に捜査を行い、場合によっては一部資産の売却などリスク軽減措置を命じる権限を有する。2018年に成立した外国投資リスク審査近代化法(FIRRMA)に基づき、当該捜査を担当する財務省の投資安全保障局(OIS)が拡充されて以降、CFIUSは未申告取引の捜査を強化している。財務省は2022年10月に、執行と罰則に関するガイドラインも公表した(2022年10月21日記事参照)。ポール・ローゼン財務次官補(投資安全保障担当)は声明で、「われわれは投資家に対するデューディリジェンスを強化し、機微な技術と安全保障上のリスクに対処し、潜在的なCFIUS規則違反を精査するための多くの審査を開始した」と強調している。報告書によると、2022年は該当する84件をCFIUSの審査にかけ、そのうち11件について正式な届け出を行うよう要請した。また、大統領が阻止した案件はなかったが、CFIUSの判断を受けて多くの案件で自主的な取り下げまたは投資の引き揚げが行われたとしている。報告書では、届け出が行われた286件のうち、最初の45日間の審査中に取り下げられた案件が1件だったのに対して、162件は追加的な調査が求められ、このうち87件が取り下げられたと示されている。取り下げられた件数は、2013年以降で最多となった(注2)。なお、申告については取り下げられた案件はなかった。

(注1)2018年に成立したFIRRMAで新設された申請の種類で、申請者が投資案件の概要を原則5ページ以内にまとめて提出し、CFIUSは受理してから30日以内に審査を終え、申請者に対して追加の行動の要否を伝えるプロセス。

(注2)CFIUSは届け出案件について、第1段階として45日以内に審査(review)を行い、その間に安全保障上の懸念が解決しない場合は、第2段階として最長60日間の調査(investigation)を行うことができる。調査を経て脅威を認定した場合は大統領に勧告を行い、大統領はそこから15日以内に取引を阻止するか否かを判断する。調査レポート「米国の経済安全保障に関する措置への実務的対応」も参照。

(磯部真一)

(米国)

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