日本製鉄、USスチールを買収、鉄鋼の生産規模は世界2位に
(米国、日本)
ニューヨーク発
2023年12月19日
日本製鉄と米国のUSスチールは12月18日、日本製鉄がUSスチールを約141億ドル(負債を含む総額約149億ドル)で買収する最終合意に達し、買収契約を締結したと発表した。これを受け同日、USスチールの株価は、市場前の取引で29ポイント急騰した(「ウォールストリート・ジャーナル」紙電子版12月18日)。
世界鉄鋼協会によると、日本製鉄は年間約6,600万トン、USスチールは2,000万トンの鉄鋼を生産している。今回の買収により、日本製鉄は、中国の中国宝武鋼鉄集団に次ぐ世界2位の鉄鋼メーカーとなる(「ウォールストリート・ジャーナル」紙電子版12月18日)。
日本製鉄のプレスリリースによると、安価なエネルギー、世界経済の構造の変化を背景に、エネルギー、製造業などの鋼材需要分野における米国内回帰の動きが顕著になってきているという。また、米国鋼材市場は国内需要が今後も安定的に伸長すると見込まれていることに加えて、先進国最大の市場で、高水準の高級鋼需要が期待できるとしている。本買収は、規模および成長率が世界的にも大きいインド、ASEANに加えて、先進国の米国に鉄源一貫製鉄所を持つことによるグローバル事業拠点の多様化の観点からも、大きな意義のある投資としている。
今後、両者の先端技術を融合することによって、2050年カーボンニュートラルへの取り組みをさらに推進し、持続可能な社会の実現に貢献していくとしている。日本製鉄は2021年3月、大型電炉での高級鋼の量産製造、水素還元製鉄(注)にチャレンジし、二酸化炭素(CO2)回収・利用・貯留(CCUS)などによるカーボンオフセット対策なども含めた、複線的なアプローチでカーボンニュートラルを目指すと発表した。USスチールも2021年4月に、2050年までに温室効果ガス(GHG)排出量をネットゼロとする目標を発表している。
日本製鉄の橋本英二代表取締役社長は、プレスリリースで「本買収により、米国における当社のプレゼンスをさらに強化し、USスチールの既存の労働組合との関係性を尊重していく。『総合力世界ナンバーワンの鉄鋼メーカー』として共に前進すべく、両社の強みを結集し、USスチールと協働することを楽しみにしている」と述べた。USスチールのデビッド・ブリット社長兼最高経営責任者(CEO)は「本日の発表は、米国鉄鋼業の競争力を確保すると同時に、米国鉄鋼業の世界的地位を強化するというかたちで、米国に利益をもたらすものだ」と述べた。
なお、USスチールのブリットCEOは、特定の生産資産のみから企業全体まで、日本製鉄を含め、複数の買収提案を受けている、と8月13日のプレス発表で明らかにしていた。一方でUSスチールは、日本製鉄のほかに米国鉄鋼メーカーのクリーブランド・クリフスからも買収提案を受けていたが、ブリットCEOは、クリフスは秘密保持契約の締結など、買収における標準的なプロセスを拒否したため、提案を拒否せざるを得ない、と発表していた。USスチールは1901年、初代エルバート・ゲーリー会長とジョン・ピアポント・モルガン氏が率いていた連邦鉄鋼会社が、アンドリュー・カーネギー氏に所有されていた鉄鋼会社を買収したことが起源となり創設された、米国最大手の鉄鋼メーカー。
(注)炉の中で鉄鉱石から鉄を取り出す方法として、従来どおりのコークス(炭素)ではなく、水素を使うことでCO2排出量の削減が可能になる。
(吉田奈津絵)
(米国、日本)
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