EU、共通規格でのデジタルID発行で最終政治合意、採択後30カ月以内に発行開始

(EU)

ブリュッセル発

2023年11月13日

EU理事会(閣僚理事会)と欧州議会は11月8日、デジタルIDによる身分証明や個人認証をEU全域で可能にする「欧州デジタルID枠組み規則案」について、最終的な政治合意に達したと発表した(プレスリリース外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)。同規則案はデジタルIDのほか、運転免許証(2023年3月8日記事参照)、銀行口座、デジタルユーロが発行された場合には同専用アプリ(2023年7月4日記事参照)などを一括で管理できる、EU共通規格に準拠した欧州デジタルIDウォレット(以下、ウォレット)の発行を全加盟国に義務付ける。

同規則により、域内の全ての市民、居住者、企業はウォレット利用が可能になる。ただし、利用者によるウォレットの発行は任意となる。また、全加盟国の公的機関のほか、民間事業者を含む銀行、交通機関、医療機関、社会保障、エネルギー、水道、郵便など厳格な身分証明が求められるサービスや、デジタルサービス法により「非常に大規模なオンラインプラットフォーム」に指定された米国アマゾンなどの事業者(2023年5月2日記事参照)については、ウォレットの利用受け付けを義務付ける。その他の民間事業者についても、ウォレット利用を自主的に受け付けることができる。

両機関は6月に、同規則案の主要部分について既に暫定的な政治合意をしており(2023年7月11日記事参照)、今回の合意は、6月の暫定合意で未定となっていた部分を含めた同規則案全体に関する政治合意だ。同規則案は今後、法文を確定するための技術的な作業を経て、両機関により正式に採択され、施行される見込み。加盟国は施行後30カ月以内にウォレット発行を開始することが求められる。

今回の合意では、6月の暫定合意の内容を維持した上で、主に次の点を確認した。

  • 個人に対するウォレットの発行、個人による利用(ビジネス目的でない電子署名の利用を含む)などは無料とする。ただし、加盟国の判断により、ビジネスでの利用の場合には手数料を課すことができる。
  • ウォレット、利用者IDの真正性、有効性の確認は無料とする。
  • ウォレットはオープンソースライセンスに基づいて開発する。ただし、加盟国は安全保障の観点から、ソースコードの一部を非公開にすることができる。
  • 現行のeIDAS規則に準拠する適格証明書(Qualified Website Authentication Certificate、QWAC、注)の承認を義務付ける。ただし、ウェブサイトによるQWACの利用は任意とする。

(注)eIDAS規則はEU域内市場での電子取引のための電子的認識、トラスト(信頼)サービスに関する規則。QWACはウェブサイトの身元を証明するSSL(暗号化プロトコル)証明書で、オンラインセキュリティーの重要な一部とされる。

(吉沼啓介)

(EU)

ビジネス短信 1afc35ec2c43a264