欧州委、EU域内の交通安全に係る法改正を提案、デジタル免許証導入も

(EU)

ブリュッセル発

2023年03月08日

欧州委員会は31日、EU域内の交通安全に関わる、運転免許証制度に係る指令改正案PDFファイル(外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)交通違反情報のEU加盟国間での共有に関する指令改正案PDFファイル(外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)EUレベルの運転免許取り消しに関する指令案PDFファイル(外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)3つの指令案を発表した(プレスリリース外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)。

このうち、運転免許証制度の改正案では、欧州委によると、世界初となるデジタル免許証の導入を提案した。EU共通の新免許証は加盟国間での相互承認が容易になるだけでなく、従来の免許証からの切り替えや更新など全ての手続きをオンライン化し、保有者は携帯電話などで免許証を提示できることから、保有者にとっても利便性が向上するとも言える。欧州委は同指令でEU域内の互換性や安全性に関する技術仕様など最低限の要件を定め、指令案の採択後18カ月以内により詳細なルールを欧州委が提案するとした。指令案の採択から4年後までに加盟国は実施体制を整備し、デジタル免許証を域内標準とすることを目指す。ただし、従来の免許証の保有や両方を保有することも認める。

EU域外国で発行された免許証の扱いについては、EUレベルでルールを統一し、EUと同等の交通安全水準にあると認められた国で発行されたものについては、取得試験などを免除して切り替えを認める。

同指令案では、持続可能な交通手段への移行を念頭に置いているのも特徴的だ。例えば、歩行者や今後さらに増えると予想される自転車など、車以外の交通安全に対する意識を高めるため、教習や取得試験の内容を見直す。試験では最新の運転支援システムなどに関連する知識や技能の評価を行うことや、教習でゼロエミッション車の運転や二酸化炭素(CO2)排出量を抑制できる運転技術を教えるといった内容も盛り込んだ。

免許取得年齢の引き下げも提案、運送業者労組は反発

このほか、同指令案では、乗用車、重量車ともに、17歳から免許を取得できるようにし(注1)、運送業の運転手不足の解消にもつなげるとした。この点について、欧州運輸労組連合会(ETF)は31日、運送業で若年ドライバーが増えないのは免許取得年齢の制限ではなく、厳しい労働条件によるものだと反発した(ETFのプレスリリース外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)。ETFは年齢引き下げによって交通安全上のリスクが増すと警告し、政策立案者は年齢引き下げではなく、トラック運転手不足の根本的な原因である労働条件の改善に向けた対応をすべきだとした。

運転技術が未熟な若年層によって多発する事故(注2)への対策は、同指令案でも重視している。例えば、取得試験の合格後、少なくとも2年間は交通違反に対してより厳しい罰則を科し、特に血中からわずかでもアルコールが検出されれば飲酒運転と見なして、厳罰を科すことなどを提案している。

3つの指令案は今後、EU理事会(閣僚理事会)と欧州議会で審議される。

(注1)ただし、運転免許取得後、18歳になるまでは、成人の同乗者がいないと運転することはできないとしている。

(注2)欧州委によると、30歳未満の運転免許保有者は域内全体で8%だが、交通事故により死亡した運転者のうち16%を占めている。

(滝澤祥子)

(EU)

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