欧州委、ECB検討のデジタルユーロの発行枠組み規則案を発表

(EU)

ブリュッセル発

2023年07月04日

欧州委員会は628日、欧州中央銀行(ECB)が発行を検討する中央銀行デジタル通貨(CBDC「デジタルユーロ」の発行枠組みに関する規則案外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますを発表した(プレスリリース外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)。規則案は、デジタルユーロの法定通貨としての地位や必須要素を規定する。規則案は今後、EU理事会(閣僚理事会)と欧州議会で審議されるが、デジタルユーロの発行を決定するのはECBだ。規則案が両機関により採択された後に、ECBはデジタルユーロ発行の可否、発行する場合はその時期や方法を規則の枠内で決定する。欧州委は、ECBがデジタルユーロの発行を決定した場合でも、発行時期は早くとも2028年以降になる見通しだとしている。

欧州委のバルディス・ドムブロフスキス執行副委員長(経済総括、通商担当)は、域外国によるCBDCの発行や民間企業によるステーブルコインの発行の動きが進む中で、EUもデジタル通貨の発行において遅れをとるべきでないと指摘。EU域内での電子小売り決済の3分の2は、ごく少数の域外企業によって提供されていることにも言及し、デジタル化だけでなく、EUの主権強化の点からもデジタルユーロの必要性を強調した。

規則案によると、既存の電子決済サービスと異なり、デジタルユーロは法定通貨として、ユーロ圏全域で使用可能となる。零細企業などの一部の例外を除き、域内の企業はデジタルユーロの受け取りが義務付けられる。遠隔地などインターネット接続の不安定な場所や状況での利用も考慮し、デジタルユーロはオフラインでも使用できる。

一般の銀行は、デジタルユーロでの決済サービスを提供することが求められ、デジタルユーロ口座の開設、デジタルユーロの送金・支払いなど基本的なサービスは無償で提供する必要がある。また、社会的弱者に配慮し、銀行口座を持たない人でも、郵便局などの公的機関を通じて、デジタルユーロを利用することができる。

プライバシー保護を強化し、デジタルユーロでの電子決済サービスを提供する事業者がアクセスできるのは、決済に必要な最低限の個人情報のみとする。ECBも暗号されたデータにのみアクセスでき、デジタルユーロを使用する個人やデジタルユーロの使途を特定することはできない。また、ECBあるいは加盟国当局は、デジタルユーロに使用目的、使用可能な相手、時期、場所などの制限をかけることはできない。

民間が提供する電子決済サービスとは別に、ECBは、デジタルユーロ専用アプリの提供を検討できる。欧州委が提案するEU共通規格に基づく「欧州デジタルIDウォレット」(2021年6月7日記事参照)での利用も想定している。

欧州委は、デジタルユーロの発行を推進する一方で、デジタルユーロはあくまでユーロ紙幣・硬貨を補完する通貨と位置づけており、企業などへのユーロ紙幣・硬貨の受け取りの原則義務付けと、市民のユーロ紙幣・硬貨への容易なアクセスを確保するための規則案も別途提案している。

(吉沼啓介)

(EU)

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