EU、域内全域で利用可能なデジタルID発行で政治合意

(EU)

ブリュッセル発

2023年07月11日

EU理事会(閣僚理事会)と欧州議会は6月29日、携帯電話を用いてデジタルIDによる身分証明や個人認証を可能にする「欧州デジタルID枠組み規則案」について、暫定的な政治合意に達したと発表した(プレスリリース外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)。EUは公共サービスのデジタル化に向けて、2030年までに最低でも8割のEU市民がデジタルIDを利用することを目標としている(2021年3月12日記事参照)。戦略的自律の観点から、域内で高いシェアを誇る米国IT大手が提供するオンライン個人認証に対抗する意図もあり、欧州デジタルIDはEU独自の身分証明・個人認証の手段となるものだ。

規則案は、EU共通の個人識別番号に基づいてデジタルIDを発行するものではなく、あくまでも加盟国がそれぞれ発行するデジタルIDに基づき、EU共通規格に準拠した欧州デジタルIDウォレットを提供するものだ。現状ではデジタルIDを発行していない加盟国もあることから、加盟国に対して欧州デジタルIDウォレットの発行を義務付けることで、域内の全ての市民、居住者、企業がデジタルIDを取得できるようになる。ただし、欧州デジタルIDウォレットの利用は任意だ。利用者は欧州デジタルIDウォレットに保存する個人情報を自身で管理でき、提供先に応じて、必要最低限の個人情報のみを提供することができる。各加盟国は公共サービスで、発行国にかかわらずに欧州デジタルIDウォレット受け付けが義務付けられ、欧州デジタルIDウォレットはEU全域で使用可能となる。

規則案は、欧州委員会が2021年に提案(2021年6月7日記事参照)したもので、EU理事会と欧州議会による正式な採択を経て施行される見込み。加盟国は施行後30カ月以内に欧州デジタルIDウォレットを発行することが求められる。

公共サービスだけでなく、民間での幅広い利用も目指す

欧州デジタルIDウォレットは、公共サービスだけでなく、民間での幅広い利用も想定されている。銀行などの金融機関やデジタル・サービス法が指定する特定の米国IT大手などのオンラインプラットフォーム事業者(2023年5月2日記事参照)に対しては、欧州デジタルIDウォレットの受け付けが義務付けられる。義務付けの対象外となる企業も、提供するサービスの一環として、所定の条件の下で欧州デジタルIDウォレットを受け付けることができる。

このほか、欧州デジタルIDウォレットは高い拡張性が確保されている。身分証明書と同時に、審議中のデジタル運転免許証(2023年3月8日記事参照)や処方箋などの医療データ(2022年5月6日記事参照)、教育や職業に関する資格などを保存、管理でき、電子署名にも対応する。

(吉沼啓介)

(EU)

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