欧州委、洋上インフラや水素関連を支援事業「共通利益プロジェクト」に指定

(EU)

ブリュッセル発

2023年11月30日

欧州委員会は11月28日、欧州グリーン・ディールに沿ったエネルギーシステムの構築に向け、計166件の事業を「共通利益プロジェクト(PCI)」および「相互利益プロジェクト(PMI)」に指定する方針だと発表した(プレスリリース外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)。EU域内の重要エネルギー・インフラ事業を対象にしたPCIと、域内と域外国とをつなぐエネルギー・インフラ事業を対象にしたPMIへの指定は、国境を越えるエネルギー・インフラ事業を支援し、エネルギーの安定供給を図る枠組み「環欧州エネルギー・ネットワーク(TEN-E)規則外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます」に基づくものだ。TEN-E規則は、欧州グリーン・ディールに合致させるべく2020年12月に改正案(2020年12月17日記事参照)が提案され、2022年6月に改正規則が施行された。この改正規則は、化石燃料事業のPCI指定を廃止しつつ、洋上風力開発に伴う電力網(グリッド)や次世代電力網(スマートグリッド)に注力するとともに、水素インフラやPMIを新たに支援する。

今回のPCIおよびPMIへの指定はTEN-E規則改正後、初となる。指定事業は、洋上インフラ12件、スマートグリッド5件、蓄電12件を含む電力事業が85件、新たに指定に加わった水素インフラ・電解槽事業が65件、二酸化炭素(CO2)回収・貯留(CCS)に関連したCO2輸送ネットワーク事業が14件などとなっている。また、域外国である英国、西バルカン諸国、北アフリカ諸国の電力網との接続事業など10件のPMIも含まれる。指定事業の詳細は、付属書外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますを参照。

洋上インフラ事業は、洋上再生可能エネルギー戦略(2020年11月24日記事参照)や欧州風力発電行動計画(2023年10月26日記事参照)に沿ったもので、北海、バルト海、大西洋に位置する。水素関連事業は、域内生産の大幅な拡大を目指す水素政策(2023年6月9日付地域・分析レポート参照)に沿ったもので、洋上・陸上の再生可能エネルギー(再エネ)発電施設に設置された電解槽により生産されたグリーン水素(2023年6月30日記事参照)の貯蔵と、需要地である工業地帯への輸送の実現を目指すものだ。主に、再エネ発電の潜在能力が高いイベリア半島、北海、バルト海、北欧などと、一大消費地であるドイツをはじめとした中・東欧とを接続する。

PCIあるいはPMIの指定は、EU予算からの財政支援を約束するものではない。指定はEU予算からの補助金申請の応募条件にすぎず、指定事業は今後、個別に補助金を申請しなければならない。一方で、指定は優先事業としての認定であることから、指定事業は、審査期限を3年半とするなどの許認可手続きにおける迅速な取り扱い、より効率的な環境評価の実施、加盟国間で費用分担を可能にする手続きの活用などの優遇措置を受けることができる。

なお、今回の指定は、欧州委がTEN-E規則の委任規則案として採択したもので、EU理事会(閣僚理事会)および欧州議会の審査を受ける必要がある。最長4カ月以内にいずれかの機関が委任規則案を否決しない限り、採択される。いずれの機関も指定事業の一覧を明記した付属書を含め、委任規則案を修正することはできない。

(吉沼啓介)

(EU)

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