欧州委、欧州医療データ空間を創出し、研究開発等での活用を認める法案を発表

(EU)

ブリュッセル発

2022年05月06日

欧州委員会は5月3日、EU域内の医療データの単一市場の創出を目指す「欧州医療データ空間」の設置規則案PDFファイル(外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)を発表(プレスリリース外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)した。欧州委は、2020年2月に発表した欧州データ戦略(注1)において、欧州の価値の尊重や人間中心の考え方を基礎にしつつ、加盟国間、EU域内のセクター間でのデータのやりとりを可能にするデータの単一市場「欧州データ空間」の構築を掲げている。欧州データ空間は、重点分野別に構築される予定で、欧州医療データ空間はその第1弾となる。今回の規則案は、EU一般データ保護規則(GDPR)(注2)、データガバナンス法案(2020年12月1日記事参照)、データ法案(2022年2月28日記事参照)などに対する、医療分野の補完的な法案との位置づけである。規則案は、医療分野に特化した共通基準、インフラ、管理枠組みを規定することで、個人の権利に対応しつつ、加盟国間で異なる規制を減らすことで、研究開発や政策立案において、より安全かつ効果的なデータの活用を目指す。

同規則案は、医療データの活用として1次利用と2次利用を規定している。1次利用とは患者本人による利用で、患者は、診療記録、処方箋、検査結果などを、加盟国間で互換性を持った電子データとして保持することができる。また、自身の選択に基づき、域内の医療機関とのデータの共有や、データの追加・修正・共有制限の設定などが可能となる。さらに、加盟国間での医療データのやり取りを可能にするために、加盟国はデジタルインフラ「MyHealth@EU」に参加することが求められる。

2次利用では、研究開発や政策立案などの分野での活用を想定している。規則案は、こうした分野での医療データの利用を認めるEU共通の枠組みを規定しており、2次利用向けインフラ「HealthData@EU」も設置する。医療データの使用は許可制とし、各加盟国に設置される医療データのアクセス管理機関への申請が必要となる。許可を取得した研究機関、企業、公的機関などの利用者は、その許可に規定された範囲内で、外部から隔離された安全な環境でのデータの処理が認められる。利用者は匿名化されたデータの抽出のみが認められ、個人の医療データにアクセスする必要がある場合には、仮名化されたフォーマットでのみアクセスが認められる。また、保険料の値上げといった個人に有害な影響をもたらす決定や、医療従事者への関連製品の販売といった営業目的での利用は禁止される。さらに、利用者は医療データの2次利用の結果を公開することが求められる。日本などのEU域外国の研究者についても、域内で利用する場合は、域内の利用者と同一の条件で、2次利用向けのデータへのアクセスが認められる。

規則案は今後、EU理事会(閣僚理事会)と欧州議会で審議される。

(注1)調査レポート「EUデジタル政策の最新概要PDFファイル(1.8MB)」を参照。

(注2)「特集 EU一般データ保護規則(GDPR)について」を参照。

(吉沼啓介)

(EU)

ビジネス短信 239b2a5546398854