米USTR、メキシコの自動車部品工場での労働権侵害の疑いでメキシコ政府に確認要請、類似案件で9件目

(米国、メキシコ)

ニューヨーク発

2023年06月01日

米国通商代表部(USTR)は5月31日、メキシコ中部グアナファト州イラプアト市に所在する自動車部品メーカー、ドラクストンの工場(当該工場)で労働権侵害の疑いがあったとして、米国・メキシコ・カナダ協定(USMCA)が定める「事業所特定の迅速な労働問題対応メカニズム(RRM)」に基づき、メキシコ政府に事実確認を要請したと発表外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますした。

RRMは、事業所単位で労働権侵害の有無を判定する手続きで、違反が認められれば、USMCAによる特恵措置の停止といった罰則が適用される。RRMの手続きは、USMCA加盟国政府が独自に発動できるが、労働組合などの第三者機関が加盟国政府に労働権侵害を提訴することも可能だ。これまで米国がメキシコに事実確認要請を行った9件のうちほとんどは、メキシコの労働組合からの提訴が基になっている。しかし、今回は、米国政府が独自に発動した案件となる。当該工場で新たな労働組合を組成する試みがあったところ、それを妨害する動きや代表者が脅迫や暴力を受けたとの情報を入手したことが発端となっている。キャサリン・タイUSTR代表は、「RRMはドラクストンの工場の労働者が、脅迫や嫌がらせ、報復の恐怖なしで、自由に権利を行使することを可能にする効果的なツールだ。メキシコ政府と協力して、これら問題に迅速に対応していくことを期待する」との声明を出している。

事実確認の要請を受けたメキシコ政府はUSMCAに基づき、調査を行うか否かを10日以内に返答しなければならず、調査を行う場合には45日以内に完了する必要がある。また、今回のUSTRによる確認要請をもって、米国は問題となっているメキシコの事業所からの製品輸入について、両国間で労働権侵害の解消に合意するまで、最終的な税関での精算を留保できる。実際、タイ代表は財務長官に対し、当該工場からの製品輸入にこの措置を適用するよう指示PDFファイル(外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)した。

RRMに基づく米国からメキシコへの事実確認要請は今回で9回目となり、その全てがメキシコ内の自動車・自動車部品工場での労働権侵害の疑いに基づくものとなっている。USMCA締結国の米国、メキシコ、カナダは域内からの強制労働の排除を重視しており、メキシコ政府もRRM手続きが開始されると積極的に協力し、比較的短期間で問題解決に至ることが通例となっている(注)。しかし、9件のうち4件は2023年に入ってからの発動で、最近、頻度が高まっている。「労働者中心の通商政策」を掲げるバイデン政権の姿勢が鮮明に表れた動きといえる。

(注)本件以外の8件のうち6件は解決済み。それらについては、次の記事を参照。

未解決の2件のうち1件は、いったんは問題が解決した上記5件目と同じ工場での2回目の違反となり、現在は米国とメキシコ両政府が合意した改善策を履行中となっている(2023年4月3日記事参照)。残る1件は5月22日に確認要請がなされたばかりの案件だ(2023年5月23日記事参照)。

(磯部真一)

(米国、メキシコ)

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