米USTR、USMCAに基づくメキシコ自動車部品工場での労働問題解決を発表、類似案件で5件目

(米国、メキシコ)

ニューヨーク発

2022年09月20日

米国通商代表部(USTR)は9月14日、メキシコ北部コアウイラ州ピエドラス・ネグラス市にある自動車部品メーカー、マニュファクトゥラスVUの工場で労働権侵害の疑いがあるとして、米国・メキシコ・カナダ協定(USMCA)が定める「事業所特定の迅速な労働問題対応メカニズム(RRM)」に基づき、メキシコ政府に事実確認を要請していた件について、問題が解決したと発表外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますした。

今回の件は、メキシコの労働組合のメキシコ労働総同盟(La Liga Sindical Obrera Mexicana:LSOM)と労働者国境委員会(Comite Fronterizo de Obreras)が、VUの工場で働く労働者の集会・結社の自由と団体交渉の権利が侵害されたとして、米政府に提訴したことが発端だ。米政府がそれを受理し、7月にメキシコ政府へ事実確認を要請していた(2022年7月22日記事参照)。USTRによると、メキシコ政府の指導と監視の下、VUの工場で代表権を持つ労働組合を決定する投票(注1)が行われ、LSOMが正式に選定された。今後、LSOMがVU工場の従業員を代表して、雇用者側と団体交渉を行う権利を有することになる。メキシコ政府は今後の状況を監視し、必要に応じて措置を講じるとしている。

キャサリン・タイUSTR代表は「米国とメキシコが労働者の権利と職場の民主主義を促進するために取った措置は、労働者が自由に団結し、自らが選択した労働組合を支援できるようにするというわれわれの共通の約束を反映したものだ」と成果を強調した。また、タイ代表はメキシコ政府への事実確認要請と同時に、停止していたVU工場からの輸入に関する関税の清算を再開するよう財務長官に要請外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますした。

USTRは2020年7月にUSMCAが発効して以降、今回の件を含めていずれもメキシコ内の自動車関連工場での労働権侵害の疑いを理由に、RRMの手続きを5回発動している。今回の解決を受けて、全ての案件は外部専門家で構成するパネルを設置する前に解決した(注2)。USTRはRRMを積極的に活用しているが、労働組合など第三者が提訴した案件全てにRRMを発動しているわけではない。USTRの報道官が米通商専門誌「インサイドUSトレード」(9月2日付)に明らかにしたところによると、メキシコの労働組合と米国の市民団体が米自動車部品メーカーのメキシコ子会社の労働権侵害を理由に米政府に提訴した案件について、「RRM発動を可能とする、十分かつ信用ある労働基本権の侵害に関する証拠」がなかったとして提訴を却下している。

(注1)メキシコでは、2019年5月1日公布の連邦労働法改正に基づいて新設された第390条Bisで、労働協約を締結する組合が労働者の声を真に代表すること(最低でも職場の30%以上の労働者の署名が必要)を確認する組合間の投票プロセスが定められている(2019年5月7日記事参照)。

(注2)解決済みの最初の4件については下記記事を参照。

(磯部真一)

(米国、メキシコ)

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