欧州委、EU初の経済安保戦略を発表

(EU)

ブリュッセル発

2023年06月23日

欧州委員会は6月20日、外務・安全保障政策上級代表と共同で、EU初の経済安全保障戦略外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますを発表した(プレスリリース外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)。戦略は、EU域内産業の競争力確保や同盟国との連携といった優先課題に加えて、投資や輸出の制限強化により、デリスキング(リスク軽減)を目指すもの。欧州委は、新型コロナウイルス感染拡大やロシアのウクライナ侵攻により特定地域・国への供給依存といったEUの経済安保上の脆弱(ぜいじゃく)性が明らかになり、デジタル技術や地政学上のリスクも急速に変化していることから、EUレベルでの経済安保リスク管理が急務だとしている。欧州委は戦略について保護主義的なものではなく、WTOなどの多国間主義を引き続き推進するとしているが、「戦略的自律」の確保に向けた投資や輸出制限の動きがより鮮明となった。

戦略によると、エネルギーを含むサプライチェーンに関するリスク、重要インフラに関するリスク、技術流出に関するリスク、経済的依存・威圧に関するリスクを念頭に、欧州委は今後、加盟国と共同で経済安保リスクの特定と評価を実施する。その上で、欧州委は経済安保リスク対策として、投資や輸出に対する制限などを強化する方針だ。

具体的には、2020年に適用を開始した対内直接投資審査規則(2020年10月13日記事参照)の改正案、加盟国間で一律の実施ができていない民生・軍事目的で使用可能な二重用途物品に対する輸出制限規則の改善策〔前段階としてのEUレベルでの量子技術、先端半導体、人工知能(AI)などの経済安保上重要な技術の選定を含む〕、経済安保目的としては世界初となるEU企業による域外国での投資制限に向けた案を、それぞれ2023年末までに提案する方針だ。域外投資の制限策に関しては、対象を域外国により軍事転用の恐れがある技術に限定するとしているが、実現には課題も多いことから、加盟国の専門家らと作業部会を立ち上げ、産業界からの意見も参考にした上で、内容を詰めるとしている。このほか、域外国による経済的威圧への対抗措置の実施を可能にする反威圧手段規則案(2023年4月5日記事参照)や域外国政府からの補助金に対処する規則案(2022年12月9日記事参照)なども積極的に活用する。

競争力強化に関しては、グリーン・ディール産業計画(2023年2月3日記事参照)に加えて、「欧州主権基金」構想を具体化した「欧州戦略技術プラットフォーム(STEP)」の設置法案を新たに発表。同盟国などとの連携に関しては、EU米国貿易技術評議会(TTC)(2023年6月6日記事参照)やG7(2023年5月23日記事参照)などを重視するとした。戦略は6月29~30日に開催される欧州理事会(EU首脳会議)で検討される予定だ。

戦略の念頭には中国の存在

戦略には中国に関する具体的な言及はないものの、念頭には中国の存在が大きいとみられる。欧州委のマルグレーテ・ベスタエアー執行副委員長(欧州デジタル化対応総括、競争政策担当)は同日の記者会見で、戦略は特定の国に対するものではないとしつつ、ウルズラ・フォン・デア・ライエン委員長による中国とのデリスキングの方針を具体化したものだとし、想定する域外国は中国とロシアになると指摘。一方で、ジョセップ・ボレル・フォンテーリャス副委員長兼EU外務・安全保障政策上級代表は、戦略は中国との対立を意図するものではないことを強調した。

(吉沼啓介)

(EU)

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