欧州産業連盟、EUのネットゼロ産業法案発表を前に規制環境の改善を強く訴え

(EU)

ブリュッセル発

2023年03月14日

ビジネスヨーロッパ(欧州産業連盟)は3月13日、EUに対して欧州の産業競争力の強化と企業の負担軽減に関する政策の速やかな実施を求める提言書PDFファイル(外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)を発表した。EUでは3月、グリーン・ディール産業計画(2023年2月3日記事参照)の一環であるネットゼロ産業法案や、重要な原材料に関する法案、電力市場改革案(2023年1月24日記事参照)といった重要法案が次々と発表される予定だ。

同連盟のマークス・バイラー事務総長は提言書の発表にあたって、投資、雇用、経済成長、イノベーションにおいて、グローバル競争を勝ち抜くには補助金の多寡だけではなく、規制環境も重要と指摘。また、「政策立案者はやや明るい見通しとなった経済予測(2023年2月15日記事参照)やエネルギー価格が下落し始めたことにごまかされてはならない」とくぎを刺し、企業の破産申請件数の増加(2023年2月21日記事参照)やEU域内の投資案件の撤回にみられるように、欧州には「産業の空洞化が現実となるリスク」があると述べた。そして、EUに対して「速やかな軌道修正」を行い、欧州企業を取り巻くビジネス環境の改善に取り組むべきだと訴え、EUの法令の策定や運用の在り方、通商および産業政策に関する提案を行った。主な提案は以下のとおり。

  1. 修正案を含む、法案の作成過程において、適切な影響評価を行う。
  2. 税負担などを軽減し、企業のエネルギーや人件費・社会保障に関連する負担を減らす。
  3. 2024会計年度から適用開始となる企業持続可能性報告指令(CSRD)(2022年12月1日記事参照)などに関連し、企業からの報告内容や仕組みを見直す。
  4. 貿易協定(FTA)の締結を推進する(2023年1月13日記事参照)。
  5. クリーンテック関連事業に限らず、事業の許認可プロセスや資金提供を迅速化する。
  6. 重要な原材料については、法案を速やかに採択し、効率的に供給を安定させ、またエコデザイン規則案(2022年4月4日記事参照)は原材料の循環性を重視するものとする。
  7. データ法案(2022年2月28日記事参照)や人工知能(AI)規制枠組み規則案(2021年4月23日記事参照)について、特に中小企業への影響を十分に考慮して、拙速な審議を避けるべきだ。

このうち、1.については、同連盟は「欧州委は2023年だけでも43の新たな政策イニチアチブを発表する予定で、また116の法案が審議中」だが、その多くが企業に与える影響が大きいにもかかわらず、適切な影響評価を実施していないものが増えていると苦言を呈した。例えば包装・包装廃棄物規則案(2022年12月2日記事参照)を挙げて、包装に係るサプライチェーン上の企業間取引への影響も含めた包括的な影響評価が必要だったとして、実施を求めた。

同連盟は、産業競争力の維持や強化には、法案作成の各段階において規制や関連手続きが企業に与える影響を考慮し、包括的な対応が求められると指摘。適切な影響評価、また産業競争力への影響診断や企業の負担減に係る施策の実施を必須とするほか、EUの全ての法令や立法措置に伴う産業競争力への累積的な影響を評価することが必要だとした。

(滝澤祥子)

(EU)

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