EU首脳、グリーン・ディール産業計画の方向性を支持、ウクライナEU加盟交渉は明言せず

(EU、ウクライナ)

ブリュッセル発

2023年02月13日

EU29日から10日未明にかけて、ウクライナ支援、産業政策、移民政策を主な議題とする特別欧州理事会(EU首脳会議)をブリュッセルで開催した(プレスリリース外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)。ロシアのウクライナ侵攻とそれに伴うウクライナ支援に関しては、同国のボロディミル・ゼレンスキー大統領を迎えて協議が行われ、EUによるウクライナに対する政治、軍事、財政、人道面での全面的な支持が再確認された。ウクライナのEU加盟(注)については、EU側はウクライナが求める加盟交渉の2023年中の開始についての言及を避けた。20222月のEU加盟申請以降、4カ月足らずで加盟候補国認定を受けるなど(2022年6月28日記事参照)、ウクライナの加盟プロセスは異例の速さで進んでいる。加盟候補国認定に続き、2番目のハードルになるとみられる加盟交渉の開始について、ゼレンスキー大統領は2023年中を目指すとしている。一方で、欧州委員会のウルズラ・フォン・デア・ライエン委員長は記者会見で、加盟プロセスは、あくまでも加盟候補国の加盟に向けた改革などの成果次第と強調。交渉開始に明確な予定表はないと述べ、具体的な開始時期には言及しなかった。

EU企業の競争力確保に補助金拡大で一致、加盟国間の格差への懸念も

欧州委が、米国インフレ削減法(2022年10月6日付地域・分析レポート)の対抗策として発表した「グリーン・ディール産業計画」(2023年2月3日記事参照)について、今回の総括文書PDFファイル(外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)では、焦点となっている加盟国レベルで実施される国家補助の規制緩和(2023年2月3日記事参照)やEUレベルでの資金調達支援などに関して、作業を迅速に進める必要があるとして、一定の方向性を示した。域外国の補助金や高騰が続くエネルギー価格により、クリーンテックなど戦略的に重要な分野における域内企業の競争力が弱まっているとし、特定の産業や期間に限定した、税額控除を含む相応の支援を可能にするために、国家補助規制手続きの簡略化や迅速化が必要だとした。ただし、現行の枠組みにおいて承認された国家補助の大部分はドイツとフランスが実施しており、加盟国間での格差が大きい。財政余力が限定される加盟国からは、国家補助規制の緩和は、一部の加盟国による補助金のさらなる拡大につながり、EU単一市場の公平な競争環境が損なわれるとの不満が出ている。こうした加盟国に配慮するかたちで、総括文書には、単一市場の一体性を維持しなければならないとする文言も盛り込まれた。

また、総括文書では、単一市場の一体性を維持するためには、企業の所在国にかかわらず支援を受けられるEUレベルでの効果的な資金調達支援が必要と明記。既存のEU予算を柔軟に活用すべきとする点では一致したものの、欧州委が提唱する新たなEU予算に基づく「欧州主権基金」の創設に関しては、2023年夏前を予定する、欧州委による具体案の発表を待つと言及するにとどめた。EU名義の債権を財源とする復興基金(2020年9月24日付地域分析レポート)に続く、欧州主権基金の創設を巡っては、財政規律を重視する加盟国を中心に反対意見が根強い。

(注)ウクライナのEU加盟問題とEU加盟プロセスについては、2022年5月19日地域分析レポート「ウクライナは、EUに加盟できるか」を参照。

(吉沼啓介)

(EU、ウクライナ)

ビジネス短信 d5927d824e6d5ac0