欧州委、グリーン・ディール産業計画の一環で、国家補助ルールの緩和策を発表

(EU)

ブリュッセル発

2023年02月03日

欧州委員会は2月1日、グリーン・ディール産業計画(2023年2月3日記事参照)の一環として、温室効果ガスの排出ネットゼロ実現に貢献する産業(ネットゼロ産業)に対する加盟国による補助金の提供を容易にすべく、EU国家補助規制を緩和する方向で改正すると発表した(プレスリリース外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)。加盟国の意見を考慮した上で、今後数週間のうちに改正案を採択する方針だ。なお、改正案は、現時点では公開されていない。

EUでは、域内競争を不当にゆがめる可能性があるとして、加盟国による特定の企業に対する国家補助は原則として禁止されており、一定の条件を満たす場合にのみ、欧州委による承認を受けた上で、例外的に認められている。欧州委は2022年3月、ロシアによるウクライナ侵攻とその後のエネルギー危機を受け、国家補助規制の一時的な緩和策である、「暫定危機対応枠組み」を採択(2022年7月13日記事参照)。その後、同枠組みは延長され、2023年末までの適用が決定している(2022年11月1日記事参照)。

欧州委は、米国のインフレ削減法(2022年10月6日付地域・分析レポート)など、域外国による補助金政策の強化を受け、ネットゼロ産業の生産拠点の域外移転に強い危機感を持っているとみられる。そこで、その対抗策として、現行の「暫定危機対応枠組み」を「暫定危機・移行枠組み」に組み替え、2025年末までの時限措置として、加盟国によるネットゼロ産業などの特定分野への補助金の提供を認める方針だ。

今回提案された「暫定危機・移行枠組み」は、(1)「暫定危機対応枠組み」を拡大するかたちでの、再生可能エネルギー(再エネ)の展開や産業の脱炭素化に対する支援と、(2)米国のインフレ削減法に対抗するかたちで、ネットゼロへの移行に向けて必要な戦略部品の生産に対する支援に関して、加盟国による、より柔軟な補助金の提供を認めるものだ。

(1)については、適用対象を全ての再エネ技術に拡大するとともに、発展途上の技術については公開入札要件を免除する。また、産業の脱炭素化についても、加盟国による投資費用の一定割合に基づく支援を認めるほか、支援上限をより柔軟にする。

(2)については、補助金を増額している域外国との公正な競争環境を確保すべく、加盟国による特定のネットゼロ産業に対する税制上の優遇措置などを認める。ただし、加盟国は、欧州委に補助金の承認を受ける際、企業の投資先の選定において、EU域内から域外に移転する具体的なリスクがあること、加盟国間での補助金競争を防ぐべく、域内での移転リスクがないことを証明する必要がある。このほか、特定分野の個別投資案件に関して、域外国が提供する補助金に対抗すべく、加盟国は域外国の補助金に見合った額を提供することも、一定の条件のもとで認められる。

国家補助をめぐっては、大規模な補助金を提供する余力のある加盟国と、それ以外の加盟国との間で、競争環境がゆがめられる危険性が指摘されている。現に、暫定危機対応枠組みの採択以降に承認された国家補助の約8割は、ドイツとフランスによるものだ。このことから、研究開発などの限定的な分野だけでなく、生産拠点への補助金を認めれば、特定の加盟国への生産拠点の集中など、EUの単一市場の分断がさらに進むとの懸念の声が、一部の加盟国から上がっている。

(吉沼啓介)

(EU)

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