EU首脳、ガス上限価格設定規則案は12月19日の合意に自信、米インフレ削減法の対抗策も協議

(EU、ロシア、ウクライナ、米国)

ブリュッセル発

2022年12月19日

欧州理事会(EU首脳会議)が12月15日、ブリュッセルで開催された(プレスリリース外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)。今回の会合では、ウクライナ情勢とそれに関連した食糧安全保障、ベルサイユ宣言(2022年3月14日記事参照)に基づく安全保障と防衛力の強化などに加えて、夏以降の最大の課題となっているエネルギー問題が協議された。

欧州委員会が11月に提案した、ガス価格急騰時に価格上限を発動させる市場修正メカニズム設置規則案(2022年11月24日記事参照)については、11月24日のEU理事会(閣僚理事会)(2022年11月28日記事参照)に続き、12月13日のEU理事会でも合意に至っていない。今回の欧州理事会の総括PDFファイル(外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)でも、価格上限の基準額など加盟国間で対立している点の詳細は触れられておらず、12月19日に追加されたEU理事会での合意を目指すと言及するにとどまっている。欧州理事会後の記者会見では、EU理事会の議長国を務めるチェコのペトル・フィアラ首相は、加盟国が19日のEU理事会で規則案をとりまとめることで合意したと明かし、欧州理事会のシャルル・ミシェル常任議長も、19日のEU理事会での合意に強い自信をみせた。

米国のインフレ削減法への対抗策も明らかに、2023年1月末までに提案予定

欧州理事会では、米国のインフレ削減法(2022年8月18日記事参照)への対抗策についても話し合われた。欧州委は12月14日、欧州理事会に先立ち、検討している対抗策の方向性を明らかにした(プレスリリース外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)。これによると、同法が再生可能エネルギーへの移行を強力に後押しする点は肯定するものの、同法が米国産製品の購入を促進し、米国での生産に対して税控除や補助金を出すことに関して、EU企業が不利に扱われることを特に懸念しているとした。そこで、同法への対抗策として、以下の措置を提案する方針を示した。

短期的な措置としては、同法の影響を受ける産業への税控除および補助金を、容易かつ迅速に実現するために、EU国家補助ルールを改正する。EU国家補助ルールは、一部の加盟国による自国企業支援などにより、27加盟国からなる単一市場の公平な競争環境がゆがめられることを防止するために、欧州委が加盟国の補助金を審査するもの。今回、欧州委は米国のインフレ削減法を念頭にEU国家補助ルールを改正し、単一市場の競争環境だけでなく、域外の競争環境を考慮するとしている。米国が補助金を出す場合に、それに見合った加盟国による補助金の拠出を容認する趣旨とみられる。

ただし、補助金を拠出する上で、加盟国間の財政余力は大きく異なり、財政余力の小さい加盟国は、単一市場において不利に扱われかねないことから、欧州委は復興基金の中核政策「復興レジリエンス・ファシリティー(RRF)」(2020年9月24日付地域・分析レポート参照)の活用を提案している。復興基金は、新型コロナ禍による被害からの復興対策だったが、ロシアによるウクライナ侵攻を受けて発表されたロシア産化石燃料依存からの脱却計画「リパワーEU」(2022年9月1日付地域・分析レポート参照)への活用も可能にする法改正を実施。計画の実現に向けて、RRFの融資枠のうち割当がされていない2,250億ユーロ分などが利用可能だとしている。

また、中期的には、より構造的な対策として「主権基金」の創設を検討している。詳細は不明だが、水素、半導体、量子コンピューティング、人工知能(AI)などの戦略的に重要な分野において、EUの共通産業政策に基づき、EUレベルで補助金を拠出するものだとしている。

欧州委のウルズラ・フォン・デア・ライエン委員長は、12月15日の欧州理事会後の記者会見で、こうした方向性に関して、加盟国から良好な反応を得たとしており、短期的な措置については2023年1月末までに提案する予定だとした。

(吉沼啓介)

(EU、ロシア、ウクライナ、米国)

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