EU理事会、エネルギー関連法案を大筋合意も、ガス価格上限の対立は埋まらず

(EU)

ブリュッセル発

2022年11月28日

EU理事会(閣僚理事会)は11月24日、エネルギー担当相の臨時会合をブリュッセルで開催した(プレスリリース外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)。EU理事会は、欧州委員会が10月に発表したエネルギー緊急規則案(2022年10月20日記事参照)と、11月に発表した再生可能エネルギー(再エネ)の整備加速に向けた規則案(2022年11月17日記事参照)に大筋で合意したものの、最大の争点となっているガス価格に上限を設定する市場修正メカニズム設置規則案(2022年11月24日記事参照)については、加盟国間の意見の隔たりが依然として大きく(2022年10月3日記事参照)、合意には至らなかった。2022年下半期のEU理事会議長国を務めるチェコのヨゼフ・スィーケラ産業貿易相は、暫定的な日程として12月13日を挙げた上で、エネルギー担当相の臨時会合を再度開催し、上記の2法案の正式な採択と市場修正メカニズム設置規則案の政治合意を目指すとしている。

EU理事会はエネルギー緊急規則案に関して、2023年春以降のガスの共同購入や、新たな液化天然ガス(LNG)価格指標の開発、ガス不足による緊急時に加盟国間でガス供給を融通する「結束メカニズム」の強化、エネルギー関連の期近物デリバティブを取り扱う取引所へのサーキットブレーカー制度の「日中価格変動管理メカニズム」の設置の義務付けについては、欧州委提案を大筋で支持した。なお、エネルギー緊急規則案で概要を規定し、設置規則案で詳細を規定する市場修正メカニズムに関しては、エネルギー緊急規則案の該当部分を削除し、設置規則案に一本化する。

再エネの整備加速に向けた規則案に関しては、再エネ施設の迅速な整備に向けて許可手続きを簡略化するために、再エネ施設の整備を優先すべき公共の利益と見なす規定の適用条件を緩和。欧州委が提案した、規則案の適用期間中に新たに申請された案件のみに限定していたものを修正し、加盟国の判断により既に申請中の案件にも適用できるようにする。また、規則案の適用期間も、欧州委提案の12カ月から延長して18カ月とする。他方で、太陽光発電の許可手続きの審査期間について、欧州委提案の最長1カ月から、原則として最長3カ月にするなど、簡略化により短縮する審査期間の上限を一部修正した。

ガス価格上限設定を巡る欧州委・加盟国間の対立は依然大きく

欧州委が今回のEU理事会の開催を前に発表した市場修正メカニズム設置規則案については、ガス価格への上限設定を積極的に支持する加盟国と、懐疑的な加盟国の両者の不満が噴出。対立の大きさを浮き彫りにする結果となった。EU理事会後の記者会見で、スィーケラ産業貿易相は、価格上限の仕組みや市場介入の度合いに関して加盟国間の立場の違いが大きいことを認めた。懐疑派は市場修正メカニズムがガスの安定供給に与える悪影響を懸念しており、より強固なセーフティーネットを求めている。一方で、積極派は、欧州委が提案した「TTF先物の期近物の清算値が2週間にわたって1メガワット時(MWh)当たり275ユーロを超えること」とする市場修正メカニズムの発動要件の基準額が高過ぎるために発動されない可能性が高く、実質的な有用性がないと批判。一部の加盟国は基準額を1MWh当たり200ユーロに下げることを求めているとみられるが、欧州委のカドリ・シムソン委員(エネルギー担当)は基準額を低く設定した場合にガスの安定供給に大きな懸念が生じることを強調しており、合意形成に向けた糸口はつかめていない。

(吉沼啓介)

(EU)

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