EU首脳、防衛費の大幅な増額とエネルギー供給のロシア依存の早期解消の方針で合意

(EU、ロシア、ウクライナ)

ブリュッセル発

2022年03月14日

EUと加盟国の首脳は3月10~11日、フランスのベルサイユで非公式会合を開催(プレスリリース外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)した。同会合では、ロシアによるウクライナへの侵攻とEUの中長期的な対応について協議が行われ、べルサイユ宣言PDFファイル(外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)を採択した。この宣言では、ロシアとその共犯であるベラルーシが、侵略戦争の全責任を負うと非難した上で、この侵略は欧州の歴史における構造的な転換点だとして、EUは自らの安全保障により大きな責任を持ち、欧州の主権の確保に向け、以下の3本の柱からなる断固とした対応をとることで合意した。

(1)EUの防衛能力の強化:NATOが今後も集団安全保障の基礎とした上で、NATOを補完する位置付けとして、EUの防衛能力を強化するとし、EU加盟国は防衛予算を大幅に増額させるとの方針で合意した。EUと加盟国は今後、EUの枠組みでの協調的な防衛能力の開発、加盟国間での共同プロジェクトや共同調達の推進、サイバーセキュリティや宇宙分野を含め、あらゆる作戦の遂行能力の獲得に向けた、さらなる投資を実施するとした。また、欧州委員会に対して、欧州防衛機関(EDA)と共に、5月半ばまでに防衛分野での投資ギャップの分析を実施し、防衛分野における産業界や技術面での基礎強化に向けたイニシアチブを提案するよう求めた。

(2)エネルギー供給の域外国への依存の解消:EUと加盟国は、特にロシア産の天然ガス、石油、石炭への依存からできる限り早期に脱却を図ることで合意した。具体的には、化石燃料への全体的な依存の解消、エネルギーの供給元の多角化、水素市場の推進、持続可能なエネルギーの開発の加速化などを挙げている。欧州委に対しては、5月末までに、3月8日に概要を発表したロシア産化石燃料からの脱却計画「リパワーEU」(2022年3月11日記事参照)を、3月末までに、来冬に向けた安価なエネルギーの安定供給の確保に向けた計画を、それぞれ提案するよう求めた。

(3)より強固な経済基盤の構築:重要な原材料、半導体、医療、デジタル、食料に関しても、戦略的な分野だとして、域外国への依存を減らす必要があるとした。特に食料に関しては、欧州委に対して、値上がりが続く食品価格や世界的な食の安全保障に関する対応策を早期に提案するように求めた。

ウクライナのEUへの早期加盟に向けた例外的な取り扱いは否定

注目されていたウクライナのEUへの早期加盟の問題については、否定的な立場を明確にした。宣言は、ウクライナが欧州の一員であると強調し、ウクライナとのパートナーシップをさらに強化する意向があるとする一方で、EUへの加盟に関しては、加盟に向けた取り組みを支持するとしつつ、あくまでもEU条約の規定に基づき対応すると明記するにとどまった。2022年上半期のEU議長国フランスのエマニュエル・マクロン大統領は会合後の記者会見で、加盟に向けた取り組みを長年にわたり続ける西バルカン諸国(2021年10月8日記事参照)などを考慮し、加盟基準を満たしていない状態で、ウクライナだけを例外的に取り扱うことはできないと述べた。

(吉沼啓介)

(EU、ロシア、ウクライナ)

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