欧州委、ガス価格急騰時の市場介入策の市場修正メカニズム設置規則案を発表

(EU)

ブリュッセル発

2022年11月24日

欧州委員会は11月22日、ガス価格の急激な高騰を制限する「市場修正メカニズム」の設置規則案PDFファイル(外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)を発表した(プレスリリース外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)。欧州の天然ガス価格は2022年8月に過去10年間の平均価格の10倍を超える1メガワット時(MWh)316ユーロまで急騰した。市場修正メカニズムは、今後同様のガス価格の高騰が起きた際にガス価格に上限を一時的に設定する緊急措置だ。同メカニズムは、欧州委が10月に発表し、EU理事会(閣僚理事会)の審議が進むエネルギー緊急規則案(2022年10月20日記事参照)に概要を示しており、今回の規制案はその詳細を規定するものだ。

EUでは9月以降のガス価格高騰を受け、ガス価格の上限設定に関する議論が本格化したものの、その在り方を巡って欧州委や加盟国間で意見が対立(2022年10月3日記事参照2022年10月11日記事参照)。10月20~21日に開催された欧州理事会(EU首脳会議)の総括では、発電用ガスに限定して上限価格を設定する案を正式に検討することで一致したとしていた(2022年10月24日記事参照)。欧州委は、今回の規則案はこの総括に沿ったものとする一方で、ガス価格を下げることを直接的な目的として、価格上限を設定する規制介入措置ではなく、世界のガス価格の水準から乖離するかたちで、欧州のガス価格が異常なレベルで高騰した場合に、一時的に上限価格を設定することで投機取引などを制限する市場介入策と説明。EUは過剰なプレミアム価格を受け入れないことを明確にするものだとしている。欧州委は、ガス価格を構造的に下げるためには、追加的な供給サイドの措置や需要削減策を取るしかないとしており、発電用ガスに限定して上限価格を設定する案に消極的な立場を示したかたちだ。発電用ガスに限定して上限価格を設定する案を求めている加盟国の対応などを含め、11月24日に開催されるエネルギー担当相理事会の臨時会合の行方が注目される。

一時的な緊急措置として明確な発動要件を規定、セーフティーネットも設定

今回の規則案によると、市場修正メカニズムで上限価格の対象となるのは、欧州の天然ガス価格の指標となっているオランダTTF(Title Transfer Facility)先物取引の期近物のみ。TTFスポット市場や取引所を介さない直接取引(OTC)は対象外となる。市場修正メカニズムは、(1)TTF先物の期近物の清算値が2週間にわたって1MWh当たり275ユーロを超え、かつ(2)10営業日連続で世界の液化天然ガス(LNG)の参照価格を58ユーロ以上上回った場合に発動される。発動後は、275ユーロを超えるTTF先物の期近物の注文は受理できなくなる。加盟国に対しては、上限価格の設定によりガスや電力の需要が拡大することを防止するための措置を発動から2週間以内に欧州委に通知することを義務付ける。

また、ガスの安定供給に向けたセーフティーネットとして、市場修正メカニズムの導入後、月末までの10営業日連続で(2)の基準を満たさなくなった場合には、市場修正メカニズムは解除されるほか、市場で予期しない混乱が発生した際には、欧州委は同メカニズムの停止を決定することができる。

この規則案は今後、EU理事会が審議することになる。採択された場合、EU官報への掲載翌日から1年間施行し、延長も可能。なお、市場修正メカニズムの発動は2023年1月1日から可能となる。

また、欧州委はこの規則案が採択された場合、ガス需要削減規則(2022年8月9日記事参照)でガス消費量の15%削減を加盟国に義務付けるEUレベルの警報の発動をEU理事会に提案する予定であることも明らかにした。

(吉沼啓介)

(EU)

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