EU理事会、一部加盟国に配慮し大幅な例外容認するも、ガス需要削減規則を採択

(EU、ロシア)

ブリュッセル発

2022年08月09日

EU理事会(閣僚理事会)は85日、ガス需要削減規則外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますを採択した(プレスリリース外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)。この規則は、ロシアからEUへの天然ガス供給が例年の3割以下となり、今後は供給の一方的な完全停止の可能性もあることから、ガス需要が増える冬季に備えて、加盟国が協調してガス需要の削減に取り組むもの。

全加盟国に対して、81日から2023331日まで、過去5年の同時期平均と比べて、ガス消費量を自主的に15%削減するように求めるとともに、EUレベルの警報が発動された場合には15%削減を義務化する。

この規則は、欧州委員会が720日に提案し(2022年7月21日記事参照)、EU理事会が26日に政治合意していた(2022年7月28日記事参照)。政治合意に反対したハンガリーだけでなく、ポーランドも採択に反対したものの、EU理事会は特定多数決によりこの規則を採択した。89日から施行、1年間適用される。

この規則で焦点となっていたのは、EUレベルの警報発動時の削減の義務化と、義務化に関するEUレベルの警報を発動する権限の所在だ。削減の義務化に関しては、欧州委による提案の直後から、南欧諸国や一部の東欧諸国を中心に反対の声が上がっていた。そうした要望に配慮するかたちで、最終的には大幅な適用免除と例外が認められている。

義務化の適用免除は、(1)他の加盟国のガス供給ネットワークに接続しておらず、他の加盟国へのガス供給の融通が限定されている加盟国と、(2)欧州電力システムに同期しておらず、同期している域外国からの電力供給が停止された場合にガス火力発電に依存する加盟国が対象となる。

例外規定としては、(3)他の加盟国との接続が限定的で、かつ輸出能力と国内の液化天然ガス(LNG)を活用して、他の加盟国へのガス供給の融通を最大限実施している加盟国は8%分、(4)ガス備蓄義務化規則(2022年7月4日記事参照)で設定された81日の中間目標を達成している国はその超過分、(5)エネルギー源ではなく原料として天然ガスを消費する肥料などの産業を有する加盟国はその消費分を、それぞれガス削減量から差し引くことができる。

また、(6202181日から2022331日のガス消費量が過去5年の同時期平均と比べて8%以上増加している加盟国は、202181日から2022331日のガス消費分を基準に削減量を算出することができる。

ブリュッセルのシンクタンクのブリューゲルによると、(1)はキプロス、アイルランド、マルタ、(2)はロシアの電力システムと同期しているバルト3国、(3)はスペインやポルトガルなど、(4)はチェコ、デンマーク、ポーランド、(5)はドイツ、(6)はブルガリア、ギリシャ、ポーランド、スロバキアを、それぞれ想定しているとしている。

また、義務化に関するEUレベルの警報についても、多くの加盟国の反対を受け、欧州委の提案あるいは5加盟国以上の警報の発動に基づくものの、発動権限は欧州委ではなく、EU理事会にあるとした。EU理事会は、一部の加盟国が反対した場合でも、特定多数決により発動を決定することができる。

(吉沼啓介)

(EU、ロシア)

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