EU首脳、電力価格の低減に向けたガス価格の上限設定の方向性を示せず

(EU、ロシア、ウクライナ)

ブリュッセル発

2022年10月11日

欧州理事会(EU首脳会議)は10月7日、チェコの首都プラハで非公式会合を開催したが(プレスリリース外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)、高騰するエネルギー価格に対する新たな合意には至らなかった。今回の非公式会合の議題には、ロシア制裁第8弾パッケージ(2022年10月7日記事参照)などのロシアへの対応やウクライナ支援などが含まれていたものの、協議の中心となったのは、電力需要削減策、エネルギーの安定供給策、エネルギー価格の低減策などのエネルギー政策だ。電力需要削減策(2022年10月3日記事参照)は10月6日に正式に採択され、エネルギーの安定供給に向けたガス備蓄義務化規則(2022年7月4日記事参照)に基づく備蓄も上限の9割を既に超えるなど、順調に進められている。

こうした中で、論点となったのは、ガス価格とそれに実質的に連動する電力価格の低減を目的に検討されている、ガス価格への上限の設定だ。フランスなど過半数を超える加盟国は供給元にかかわらずガス全体を対象にした上限価格の設定を支持する一方で、ドイツなどの加盟国のほか欧州委員会はロシア産天然ガスに限定して上限価格を設定すべきとしており、今回の非公式会合でも一致した方向性を見いだすことはできなかった。10月11~12日にはEU理事会(閣僚理事会)のエネルギー担当相の非公式会合が予定されており、同20~21日に予定の欧州理事会に向けて、さらなる協議が進められるものとみられる。

欧州委、ガス価格と電力価格の部分的分離などの新たな措置を提案へ

欧州委のウルズラ・フォン・デア・ライエン委員長は、非公式会合後の記者会見で、協議の焦点はエネルギー供給の確保から、エネルギー価格への対応に移っているとの見方を示した。これは、域内の天然ガス輸入に占めるロシア産の割合が、ロシアによるウクライナ侵攻前の41%から既に7.5%まで低下するなど、「リパワーEU」計画(2022年9月1日付地域・分析レポート参照)に基づく、調達先の多角化によるロシア産エネルギーからの依存脱却が着実に成果を上げているとともに、今冬に向けたガス備蓄が順調に推移していることを念頭に置いたものだ。

高騰するエネルギー価格の安定化策に関しては、欧州委は新たな措置の実施に向けた工程表を欧州理事会に提示したことを発表した。この工程表ではまず、信頼できる天然ガスの供給元との間で、プレミアム価格を制限し両者が許容できる価格で安定的に取引を行うための「回廊」の設定を目指すとしており、既にノルウェー企業との協議に入っているとした。このほか、上述のガス価格の上限設定に加えて、実質的に連動するガス価格と電力価格の部分的なデカップリング(分離)を検討していることを明らかにした。これは、欧州委が2023年初頭に提案を予定するガス価格と電力価格のデカップリングによる大規模な電力市場改革(2022年8月31日記事参照)の第一歩になるものだとしている。欧州委は、20~21日の欧州理事会までに、これらの提案の詳細を発表する予定だ。さらに、2023~2024年の冬に向けた2023年春以降の新たなガス備蓄を対象に、欧州委が検討しているガスの共同調達に関して加盟国から幅広い支持が得られたとして、引き続き準備を進めるとした。

EU加盟国・非加盟国による「欧州政治共同体」の第1回会合を開催

欧州理事会の非公式会合に先立ち、欧州各国首脳の新たな政治対話の枠組みとなる「欧州政治共同体」の第1回会合が10月6日、プラハで開催された。今回の会合には、EU加盟国のほか、英国、ノルウェーなどの非加盟国、西バルカン諸国、トルコ、ウクライナなどの加盟候補国を含む44カ国が参加した。ロシアとベラルーシを除く欧州各国の首脳が一堂に会したことから、フォン・デア・ライエン委員長は、ロシアに対する欧州の団結を示すことができたとその意義を強調した。

(吉沼啓介)

(EU、ロシア、ウクライナ)

ビジネス短信 408b55e4fc5e5988