欧州委、ガス共同購入の義務化や新たなLNG価格指標に関する法案を発表

(EU)

ブリュッセル発

2022年10月20日

欧州委員会は1018日、高騰するエネルギー価格対策とエネルギー安定供給の強化策としてエネルギー緊急規則案外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますを発表した(プレスリリース外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)。この規則案は、天然ガスの共同購入、緊急時の加盟国間のガス供給の融通、液化天然ガス(LNG)に関する新たな価格指標の開発と急激な価格変動に対する一時的な対応策からなる。共同購入や新たなLNGの価格指標の開発は、主に20232024年の冬に向けた、2023年春以降のガス備蓄に関する対策となっており、今冬向けのエネルギー価格対策としては限定的な内容となった。EUでは特に2022年夏以降、高騰するエネルギー価格への即効性のある対策として、ガス価格への上限設定が議論されているが(2022年8月31日記事参照)、上限設定の対象などを巡り加盟国間で意見が割れている(2022年10月3日記事参照2022年10月11日記事参照)。欧州委は同時発表た政策文書外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますにおいても、スペインとポルトガルが国家補助として既に導入している発電用ガスに限定した上限価格の設定(2022年6月14日記事参照)に関して、各加盟国のエネルギー事情が大きく異なることから、全加盟国に適用する上で解決すべき課題は多いとした。この規則案やガス価格の上限設定については、102021日に開催される欧州理事会(EU首脳会議)で協議される見込み。

2023年春以降、EU域内のガス備蓄の15%以上の共同購入を義務化

規則案では、2023年春までに開始すべく、ガスの共同購入に関する暫定的な仕組みを設置する。欧州委はまず、共同購入に向けて需要集約を実施するサービス提供事業者を公共調達により選定。サービス提供事業者は、域内のエネルギー事業者から、予定するガスの購入量や供給時期などの情報提供を受けることでガス需要を集約し、集約分を満たすガスの供給元を公共入札手続きにより募集する。共同購入にあたっては、エネルギー事業者は、より良い契約条件を得るために、ガス購入コソーシアムを組むことができる。なお、エネルギー事業者による需要集約への参加は義務ではない。一方で加盟国は、ガス備蓄義務化規則(2022年7月4日記事参照)の対象となる備蓄上限の少なくとも15%分(EU全体で135億立方メートル相当)に関して、自国内のエネルギー事業者に対して、需要集約への参加を求めることが義務付けられる。

また、域内のガスの安定供給に向けて、ガス不足による緊急時に、加盟国間でガス供給を融通する「結束メカニズム」を強化する規定も盛り込む。既存のガス安定供給規則では、ガス供給の融通条件に関して、2国間協定を自主的に締結することを求めているが、現状では想定される40以上の協定のうち6件の協定しか締結されていない。規則案では、こうした2国間協定がない場合の条件を規定し、緊急時に自動的に適用するとしている。また、EUレベル、あるいは複数の加盟国からなる地域レベルで緊急事態が発生した場合に、EU理事会(閣僚理事会)がガス供給能力の割当を決定できる新たなメカニズムも導入する。

さらに、規則案は、エネルギー規制当局間協力庁(ACER)に対して、欧州の天然ガス価格の指標となっているTTFTitle Transfer Facility)を補完する新たなLNGの価格指標の開発と、20233月末までの運用開始を求める。また、ガス価格の過度な上昇を防ぐ目的で、TTFで取引される天然ガスを対象に「市場修正メカニズム」を導入する。市場への介入策であることから「最終手段で」とした上で、EU理事会は、同メカニズムを発動することで、TTFスポット市場の天然ガス取引において、変動型価格上限を一時的に設定することができる。また、その他の域内のガス取引所についても、変動型の価格回廊を通じて、同メカニズムにより上限が設定されたTTFスポット価格と連動させる。エネルギー関連の期近物デリバティブを取り扱う取引所に対しては、20231月末までに極端な価格の変動時に取引を一時的に制限するサーキットブレーカー制度である「日中価格変動管理メカニズム」を設定することを義務づける。

(吉沼啓介)

(EU)

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