EU首脳、発電用ガスに限定した上限価格の設定で一定の方向性を示す

(EU)

ブリュッセル発

2022年10月24日

欧州理事会(EU首脳会議)が10月20~21日、ブリュッセルで開催された(プレスリリース外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)。今回の欧州理事会では、ウクライナ情勢、対アジア関係や11月に開催される国連気候変動枠組み条約第27回締約国会議(COP27)への対応などが協議されたが、最大の焦点となったのは高騰するエネルギー価格へ対応策だ。

欧州理事会は今回、全会一致で採択した総括PDFファイル(外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)文書で、EU理事会(閣僚理事会)と欧州委員会に対して、発電用天然ガスを対象に価格上限を一時的に設定するEUレベルの枠組みに関する詳細を緊急に提示するよう求めた。これまで、各加盟国はエネルギー価格の高騰により逼迫する家計や企業向けの対策を急ぐ一方で、EUレベルでの対策については、特にガス価格の上限設定の在り方をめぐり、加盟国間で意見が割れており、協議が続いていた(2022年10月11日記事参照)。今回の総括文書により、欧州理事会は一定の方向性を示したかたちだ。発電用天然ガスに限定して価格上限を設定する案は、欧州委が以前から検討しているもので(2022年10月3日記事参照)、スペインとポルトガルは国家補助として既に導入している(2022年6月14日記事参照)。一方で、総括文書ではこの案の費用便益分析を実施することを求めており、以下の課題や懸念材料についても検討する必要があるとした。(1)さまざまな発電方法のうち限界コストの安い電気から順に取引される現在の方式(メリットオーダー)を修正しないこと、(2)ガス需要の削減に取り組んでいることから(2022年8月9日記事参照)、価格上限の設定によるガス価格の低下がガス消費の増加につながらないこと、(3)加盟国間でのガスの分配や各加盟国の財政上の影響、(4)価格上限の維持が加盟国の国家補助による場合、国家補助により安価になったガスがEU域外に流出する懸念など。

また、欧州委が、欧州理事会に先立ち発表した、ガス共同購入とその一部の義務化、緊急時の加盟国間のガス供給の融通、新たな液体天然ガス(LNG)価格指標の開発と急激な価格変動に対する一時的な対応策からなる規則案(2022年10月20日記事参照)についても、加盟国から一定の了解が示されたとしている。ガス価格の上限設定とこの規則案は、10月25日予定されているエネルギー担当相理事会で、その詳細が協議される予定だ。

COP27に向けて、締約国に対策強化を呼びかける

欧州理事会は、COP27に関しては、世界中での熱波、山火事、洪水などの異常気象が多発しており、パリ協定の気温上昇を1.5度以内に抑えるという目標の実現可能性を維持するために、全ての締約国に対して対策の再検討と強化を求めるとした。また、EUの対中関係に関しては、総括文書では「戦略的な議論が行われた」との表現にとどまり、詳細は明らかにされなかった。

(吉沼啓介)

(EU)

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