ジェトロ、英国経済動向セミナー開催、リスクと機会を解説

(英国)

ロンドン発

2022年04月04日

ジェトロは3月3日、英国経済動向セミナーを開催、ロンドン事務所の中石斉孝所長が登壇した(セミナー資料参照PDFファイル(5.2MB))。

まず、欧州地域の地政学リスクを説明し、英国、米国、EU、ロシア、中国の最近の動向に触れた。ウクライナ情勢に関しては、各国・地域による制裁の動向や避難民の増加による影響のほか、欧米企業による事業の停止・撤退状況を解説、レピュテーションや為替、原材料や部品の供給停止のリスクへの対応が行われていると紹介した。英国の対外政策については、ファイブアイズ(注1)やAUKUS(注2)などの枠組みを通じたインド太平洋の安全保障協力推進を紹介。対中政策では、2022年以降、経済関係を重視する動きが一部でみられるが、ウクライナ情勢などを受け、強硬な姿勢が続くと分析した。

経済的リスクについては、ロシア・ウクライナ情勢の影響、供給制約による物価上昇、米・EU・英の中央銀行の出口戦略を解説するとともに(注3)、世界的な就業構造の変化に伴い人手が不足していることを分析した。

英国のEU離脱(ブレグジット)後の外交、通商について英国が掲げる「グローバル・ブリテン」については、世界の成長地域、特にインド太平洋地域への参入強化を志向しているとした。英EU通商・協力協定(TCA)に加え、EUに先んじたオーストラリア、ニュージーランドとの自由貿易協定(FTA)署名や、インドとのFTA交渉開始など貿易協定交渉が進んでおり(2021年12月21日記事2022年1月18日記事3月2日記事参照)、EU以外との貿易が拡大しているとした。

ブレグジットによる利益最大化に向け、提出が予定されるブレグジット自由法案(2022年2月1日記事参照)については、英国政府が今後の方向性を示したことの重要性を指摘した。

イノベーションでは、英国で2021年末までに115社のユニコーンが創出されてきた一方、同年12月時点のユニコーン数は37社とエグジット(投資回収)が進んでいることを紹介した。フィンテック分野でも、データ分析会社フィンデクサブルが2021年に発表した世界ランキングで、英国が2位を獲得したことに触れた。ライフサイエンスでは、政府が新型コロナ下で実施した検査データを分析、産業界と連携しながら活用を進めているとした。

グリーンについては、英国の洋上風力、EV政策の動向とともに、エネルギー構造についても触れた。英国は2020年時点で石油・天然ガスなどの4割を自給し、国際連系線でグリーン電力を調達するとともに、2050年のシナリオには原子力発電を明確に位置付けるなど、有事に備えた現実路線を政府が進めていると分析した。

(注1)UKUSA協定締約国である英国、米国、カナダ、オーストラリア、ニュージーランドによる、同協定に基づく機密情報を共有する枠組み。

(注2)米国、英国、オーストラリアが2021年9月に発表した新たな安全保障協力の枠組み。

(注3)米国連邦準備制度理事会(FRB)は2022年3月15~16日に政策金利の誘導目標引き上げを発表。0.25ポイント引き上げ、0.25%~0.5%とすることを決定(2022年3月17日記事参照)。イングランド銀行も3月17日に、政策金利を0.25ポイント引き上げ、年0.75%とすることを発表している(2022年3月18日記事参照)。

(山田恭之)

(英国)

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