米USTR、中国のWTO順守状況を批判、新たな対抗戦略の必要性強調

(米国、中国)

ニューヨーク発

2022年02月17日

米国通商代表部(USTR)は2月16日、2021年の中国によるWTO協定順守に関する報告書を公表外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますした。この報告書は、2001年の中国のWTO加盟以降、米国の国内法で連邦議会への提出が義務付けられているもので、今回で20回目となる。2020年の報告書はトランプ政権(当時)下の2021年1月に公表されたので、バイデン政権下では初の作成となった。

報告書は、(1)中国のWTO加盟国としてのステータスの評価、(2)中国問題へのこれまでの対抗策の有効性の見直し、(3)WTOの枠外も含めた、新しくより有効な対中戦略の必要性、(4)中国の不公正貿易慣行の具体例の4部構成となっている。

USTRは(1)に関して、中国は長きにわたり、自らの産業政策の目的を達成するためにWTOルールに違反してきたと批判している。(2)でも、例えば、米国はその他のWTO加盟国とも連携して中国をWTOに27回提訴し、全ての件で勝訴したものの、中国は問題となる政策を改革してこなかったとしている。また、米中2国間の文脈では、トランプ前政権時に発効した米中経済・貿易協定(いわゆる第1段階協定、2020年2月21日記事参照)の評価に分量を割いている。USTRは、同協定はそもそも、知財保護の強化や金融市場の開放など中国が既に取り組んでいた事項や、トランプ前政権が重視した中国による米国製品・サービスの買い増しなどで米国側をなだめる計算の下で合意した内容で構成されていると述べている。その上で、中国は協定内容の一部は履行しているものの、農業分野の非関税障壁の削減・撤廃などに着手しておらず、米国製品・サービスの買い増しでも目標額に到底達していないとしている。

USTRは、中国の国家主導と非市場的慣行が当面は変わらないという前提の下、(3)において長期を見据えた新たな対中戦略が必要だとして、次の3点に注力するとしている。

  1. 2021年10月から着手しているとおり、2国間での関与を継続する(2021年10月13日記事参照)。現在は、産業政策を含む中国のアプローチの中で最も懸念のある問題を協議しているとともに、第1段階協定を含む現行の合意事項の順守を追求している。
  2. 米国内で貿易ツールのアップデートと新規創出が必要。
  3. 2国間、多国間、WTO枠内を含めて、同盟・友好国とのより緊密かつ幅広い協力が必要だ。実例として、米EU貿易技術評議会(2021年9月30日記事参照)と日米通商協力枠組みの立ち上げ(2021年11月18日記事参照)、日米EU3極貿易相会合の刷新(2021年12月1日記事参照)が挙げている。また、インド太平洋諸国とも通商関係の強化を協議している(2022年2月9日地域・分析レポート参照)。

一方で、上記1については、中国が第1段階協定を履行できなかった場合の扱いに言及がない上、2に関しても具体的なツールに関する説明がなく、より詳細な対中通商戦略が明らかになるまでには時間がかかりそうだ。

(磯部真一) 

(米国、中国)

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