米エネルギー長官がメキシコ訪問、電力再国有化に懸念表明も

(メキシコ、米国)

メキシコ発

2022年01月24日

米国エネルギー省のジェニファー・グランホルム長官は1月20、21日にメキシコを訪問し、アンドレス・マヌエル・ロペス・オブラドール(AMLO)大統領やマルセロ・エブラル外相、ロシオ・ナーレ・エネルギー相らと会談し、エネルギー分野の2国間協力などについて話し合った。メキシコのエネルギー省の1月20日付プレスリリース外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますによると、グランホルム長官とナーレ大臣との会談では、両国が相手国への敬意を示した上で2国間協力に関する議論が進展した。AMLO大統領も1月21日の記者会見でグランホルム長官との会談に触れ、同長官からメキシコの電力国有化に向けた憲法改正案(2021年10月4日10月6日10月14日11月5日記事参照)に懸念が伝えられたことを明らかにし、既にメキシコに投資している米国企業については、個別に対話で紛争を解決する考えを示した。

他方、米エネルギー省の1月21日付声明外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますによると、グランホルム長官は、メキシコ政府との会合が率直に敬意をもって行われたとしつつも、全ての会合でメキシコの憲法改正案が米国企業の投資に与える負の影響への懸念を表明。憲法改正案はクリーンエネルギーや気候対策に向けた両国の努力を妨げるとし、北米の利益のためには、開かれた競争市場を維持・強化する必要があるとした。その上で、メキシコ政府がクリーンエネルギーをサポートし、法の支配の下で現在抱えている紛争の解決に尽力することを確信したとしている。

今回の訪問に先立ち、米民主党上院議員のロバート・メネンデス、ブライアン・シャッツ、ジェフ・マークリー、ティム・ケインの4氏は1月18日、アントニー・ブリンケン米国務長官とグランホルム長官に連名で書簡外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますを送り、メキシコのエネルギー政策に対する米バイデン政権としての強い懸念をグランホルム長官が会談の中で明らかにすべきと要請した。バイデン政権の今までの沈黙は、この問題への関心のなさ、あるいはメキシコのエネルギー政策に対する暗黙の承認だとAMLO大統領に捉えられていると警告している。

メキシコ経済界は公聴会で憲法改正案に強く反対

メキシコ下院では、憲法改正案についての公聴会(2022年1月19日記事参照)での議論が続いている。1月19日の公聴会に参加したメキシコ経営者連合会(COPARMEX)は、改正案がこのまま実現すればメキシコにとっての後退を意味し、パリ協定に基づく温室効果ガス削減に向けた流れに逆行する国として「国際的に恥をさらす」と警鐘を鳴らしている。特に、(1)消費者の選択の自由の排除、(2)競争の排除、(3)環境や国庫に対する悪影響の3つの側面から、改正案は断固として受け入れられないとしている。

当初予定していた19日の公聴会に参加できなかった企業家調整評議会(CCE)のカルロス・サラサール会長は、公聴会のために用意した声明をSNSで発表した。その中で、2013年末のエネルギー改革以降、安価でクリーンな電力を供給してきた民間部門の貢献を強調した。また、AMLO政権が自家発電事業者や独立発電事業者(IPP)に対する批判を強めていることに対し、民間企業は常に法律を順守してきたとし、法律に背く企業があるのならば法律に従って裁けば良いとし、憲法を改正する必要はないと主張した。

(中畑貴雄)

(メキシコ、米国)

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