AMLO大統領、電力分野の国の影響力強化する憲法改正案を国会提出

(メキシコ)

メキシコ発

2021年10月04日

メキシコのアンドレス・マヌエル・ロペス・オブラドール(AMLO)大統領は10月1日、電力分野の国の権限を強化する憲法改正案PDFファイル(外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)を国会に提出した。1992年の関連法改正や2013年末以降のエネルギー改革により、発電分野の影響力を失った電力庁(CFE)を民間企業より優遇する目的の改正で、主に以下の内容からなる。

  1. 電力事業は発電事業など(従来は送配電や電力系統開発計画の立案のみ)も含め、原則として国家が独占する戦略的分野とする。
  2. CFEは国の需要の少なくとも54%を発電し、民間企業の発電は46%までに抑える。
  3. これまでの送配電に加え、公共電力の供給もCFEが独占する。
  4. リチウムを国のエネルギー転換のための重要な鉱物資源と特定し、国が開発を独占する。ただし、リチウム開発のコンセッションが既に与えられている企業については、改正発効時に探鉱投資が行われていることを条件に開発継続を認める。
  5. 国家電力管理センター(CENACE)をCFEに統合、エネルギー管理委員会(CRE)と国家炭化水素委員会(CNH)は廃止し、両委員会の機能をエネルギー省が担う。
  6. 既存の発電許可やCFEと民間企業の間の契約は全て取り消し、CFEが国の電力需要の46%までを必要に応じて民間発電事業者から調達することとする。違法な形態の自家発電事業や、独立発電事業者(IPP)のCFEとの当初契約量を上回る発電については認めない。
  7. クリーンエネルギー証明書(CEL、2016年1月8日記事参照)を廃止する。

経済界は強い反発

今回の改正は明らかなCFE優遇策であり、民間発電事業者の既存のビジネスを大きく阻害することとなる。日本の経団連に相当する企業家調整評議会(CCE)は10月1日、プレスリリース外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますを出し、今回の憲法改正が実現すれば、古く非効率なCFEの発電所の電力を強制的に使用することになるため、電力価格が上昇し、メキシコの家庭をはじめとする消費者に大きな害を与えるとともに、民間企業が得意とする再生可能エネルギー発電事業を阻害することにより、環境面でも大きく後退すると警鐘を鳴らす。

また、既存のルールを過去にさかのぼって変更することを禁じる憲法の原則に違反し、多額の投資を行った民間企業に深刻な損害を与え、メキシコにおける法の支配に対する信頼を失墜させると強調する。さらに、発電コストが高いCFEの発電を優遇しつつ大統領の「電力価格をインフレ率以上に上昇させない」という約束を守るためには、政府がCFEに補助金を出す必要が生じ、国庫にも悪影響を与え、大統領自身が重視している均衡財政と公的債務の抑制という公約にも反することになると主張する。

憲法改正のためには国会の上下両院で出席議員数の3分の2以上の賛成が必要となる。現時点で与党連合の議席保有率は上院で57.8%、下院では55.5%にすぎないため、憲法改正案が可決される可能性は現時点では高くない。

(中畑貴雄)

(メキシコ)

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