下院が電力再国有化に向けた憲法改正案の公聴会開始

(メキシコ)

メキシコ発

2022年01月19日

メキシコ連邦下院は1月17日、アンドレス・マヌエル・ロペス・オブラドール大統領が2021年10月1日に国会に提出した電力再国有化に向けた憲法改正案(2021年10月4日10月6日10月14日11月5日記事参照)について公聴会を開始した。公聴会は2月15日まで開かれ、専門家や民間事業者、市民団体などに広く参加を呼びかけ、委員会の最終法案策定の参考とする。

1月17日の公聴会初日には、下院エネルギー委員会に所属する議員に加え、複数の州知事が参加し、憲法改正案に対するそれぞれの考えを述べた。与党・国家再生運動(MORENA)議員や同党出身の知事らは、電力開発における国の主権の重要性を強調し、国の関与を強めることによって電力系統の秩序ある発展を促す必要があると主張した。一方、野党議員は電力市場の自由な競争の重要性を強調した。公聴会に先立ち、民間シンクタンク(21st Century Power Partnership)が1月11日に発表した報告書PDFファイル(外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)によると、憲法改正が実現した場合、電力コストが最低31.2%、最高52.5%も増加するという見通しが発表されており、野党議員や経済界からは、競争の欠如により電力調達コストが増加することを懸念する声が強い。

細則レベルで民間発電事業を規制する動きも

憲法改正の動きと並行し、現行の法体系化でエネルギー管理委員会(CRE)が定める細則を変更することで、民間発電事業に対する規制強化を進める動きもある。CREは2021年12月31日、電力産業法(LIE)第22条が定める「送配電網の利用を伴わない自家発電(Abasto Aislado)」の要件である「自社の必要性」の解釈基準を官報公示した。これにより、発電事業の根拠となる「自社の必要性」が厳格に判断され、自社内、あるいは支配関係がある同一企業グループ内の電力消費が要件となった。従って、工業団地が発電所を併設し、資本関係のない入居企業に電力を供給するビジネスは今後できなくなる(注1)。

CREはさらに、事業許可が必要となる0.5メガワット(MW)以上の発電事業者の許認可取得要件を厳格化する細則の草案を2021年12月22日に国家規制改善委員会(CONAMER)に送付し、パブリックコメントを受け付けている。同草案によると、発電事業許認可を得るための事前提出書類や情報の追加、電力系統への接続に際する影響調査の前倒し(注2)、詳細な発電所建設計画の策定、許認可取得や建設開始、操業開始などの各段階に応じた報告義務の強化などの新要件が加わる。これにより、CREにとってはさまざまな理由によって許認可を出さない、あるいは一度付与した許認可の取り消しが可能になるため、メキシコ風力発電協会(AMDEE)やメキシコ太陽エネルギー協会(Asolmex)は、民間事業者の発電事業投資の阻害につながると草案の内容に反対するコメントを提出している。同草案の内容確認とコメント提出は、Conamerのウェブサイト外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますで行うことができる。

(注1)工業団地入居企業が電力需要1メガワット以上の大口需要家ならば、現行法(LIE)体系化で売電することは可能だが、「自家発電」(Abasto Aislado)のスキームではない。また、1992年施行の旧法(電力公共サービス法)の体系化で送配電網の利用を伴う自家発電事業の許認可を得た事業者に対する今回の解釈基準変更の影響はない。

(注2)現行制度では、発電事業の許認可を取得した後に国家電力管理センター(CENACE)に系統接続許可の取得を行うことになるが、その際に系統接続の安全性を示す調査結果を提出すればよい。

(中畑貴雄)

(メキシコ)

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