メキシコ経済相、米国のEV税額控除法案が成立した場合の制裁適用の意向表明

(メキシコ、米国)

メキシコ発

2021年12月03日

メキシコ経済省は12月2日、自動車産業が集積する主要州の経済開発長官を招くかたちでオンライン記者会見を開き、米国上院で審議中の電気自動車(EV)税額控除法案(2021年9月16日記事参照)が成立した場合、米国・メキシコ・カナダ協定(USMCA)やWTOの規定に反することを理由に、米国産品に対して制裁措置を適用する意向を表明した。米国のEV購入に際する税額控除については、10月29日に駐米メキシコ大使が日本やカナダなど他の24カ国・地域の大使との連名で反対の意を表明する書簡を米議会とバイデン政権に送っている(2021年11月4日記事参照)。

タティアナ・クルティエール経済相は、自動車産業がGDPの約4%、輸出の25%以上を占め、100万人以上を雇用する重要な産業であることを挙げ、同産業を米国の差別的な措置から保護する重要性を強調した。同税額控除の金額は、条件に応じて最大で1万2,000ドルに及ぶが、組み立て工程の構成部品の50%以上が国内生産品であり、動力として搭載されるバッテリーセルの組み立てが国内で行われている場合には500ドルが上乗せされる。さらに、2027年以降は米国で組み立てられたEVのみが税額控除の対象となるため、米国でのEVやバッテリーの自動車部品の生産を他国に比べて優遇する内容であり、USMCAやWTOの規定に反するとしている。また、11月18日に開催された北米3カ国首脳会議(2021年11月22日記事参照)で北米域内のサプライチェーンの強化に合意したにもかかわらず、同法案は米国内の生産のみを優遇する内容になっているとし、首脳会議で合意した北米の生産統合の理念に反すると強調している(経済省12月2日付プレスリリース)。

過去にも何度かNAFTAに基づく対米制裁を発動

クルティエール経済相は、法案が成立して実際に税額控除が米国生産のみを優遇するかたちで適用された場合、メキシコは報復関税の適用を含めたあらゆる制裁措置を検討するとしている。具体的な産品についての明言は避けたが、米国側が被害を痛感するような特定地域の特定産品を選定するとしている。

メキシコ政府は過去にも米国側の北米自由貿易協定(NAFTA)違反を理由に、何度か米国産品に対して報復関税を課している。2018年6月には米国の通商拡大法232条に基づくメキシコ産鉄鋼・アルミニウムに対する追加関税賦課への報復措置として、米国産品71品目に報復関税を課している(2018年6月6日記事参照)。制裁対象品目は、貿易制限措置による両国側の被害額が等しくなるように選定するが、米国議会に効果的に圧力をかけるため、有力議員のお膝元の産品を選定することが多い(2019年5月17日記事参照)。

(中畑貴雄)

(メキシコ、米国)

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