米証券取引委員会、中国企業に対する情報開示要求を強化

(米国、中国)

ニューヨーク発

2021年08月04日

米国証券取引委員会(SEC)は7月30日、米国の証券取引所に上場を計画する中国企業に追加的な情報開示を要求する方針を発表外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますした。中国政府が国外で資金調達を行う中国企業への管理強化(2021年7月12日記事参照)を発表したことなどを受け、米証券市場の投資家保護を強化する(注1、2)。

SECのゲーリー・ゲンスラー委員長は声明で「変動持ち分事業体(VIE)」という形態の、中国企業が設置するペーパーカンパニーを懸念として挙げた。中国企業の多くは国外で直接上場ができないため、英国領ケイマン諸島などで設立したVIEを通じて資金調達を行っているという。VIEは中国企業の株式を所有していないにもかかわらず、財務報告では中国企業と連結することが可能だ。ゲンスラー委員長は「一般の投資家が中国企業ではなくペーパーカンパニーの株式を保有していることに気付かない」可能性を指摘した。

SECは今後、登録届け出を行う中国企業と関連する国外企業に対し、以下の情報開示を求める。

  • 投資家が、中国企業ではなく当該中国企業と提携関係にあるペーパーカンパニーの株式を購入していること。そのため、ペーパーカンパニーの事業情報については、中国企業の事業情報とは区別させる。
  • 中国企業とペーパーカンパニー、投資家が中国政府の今後の措置に関わる不確実性に直面していること。
  • 投資家がVIEと株式発行者との財務関係を理解するための詳細な財務情報(数量指標を含む)。

加えて、直接またはペーパーカンパニーを通じて証券登録を行う中国企業に対しては、以下の情報開示を求める。

  • 米国での上場に関して、中国当局の承認を受領したか、または却下されたか。承認が将来に却下または撤回されるリスク。撤回された場合にその撤回を開示する義務。
  • 米国公開会社会計監督委員会(PCAOB)が行う監査(2020年12月22日記事参照)の結果が不十分な場合、上場廃止となる可能性があること。

ゲンスラー委員長はまた、主要な中国企業の申請について、対象を絞った追加的な調査を行うようSECに指示している。米議会に属する米中経済・安全保障調査委員会(USCC)によると、米株式市場(注3)に上場する中国企業は248社に上り、2兆1,000億ドルを調達している(5月5日時点)。上場している中国企業のうち、アリババなどは例えば、中国政府の今後の措置に関わる情報を公開しているが、米金融サービス会社レイモンド・ジェームズのエド・ミルズ氏は、中国企業の情報開示は不十分なケースが多いとして、今回の発表を「競争条件の整備につながる」と評価した(「ウォールストリート・ジャーナル」紙電子版7月30日)。

マルコ・ルビオ上院議員(共和党、フロリダ州)は今回の決定について「遅きに失した」としつつ、自ら提出した法案PDFファイル(外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)成立を通じて、米国の監査基準を満たさない企業の米国での上場を禁止すべきと主張している。

(注1)今回のSECの発表に先立ち、米議会では、ニューヨーク証券取引所に上場した中国の配車アプリ大手の滴滴出行が中国当局による審査対象となった(2021年7月9日記事参照)ことを踏まえ、共和党上院議員がSECによる取り締まり強化を求める書簡PDFファイル(外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)をゲンスラー委員長に送付していた。滴滴出行は、中国政府による管理強化や審査が報じられて以降、ニューヨーク証券取引所での株価が上場時の14ドルから30%以上下落している(CNN7月30日)。

(注2)中国企業の証券取引をめぐっては、ジョー・バイデン米国大統領が6月3日に署名した中国の軍事産業に関わる中国企業に対する米国人による証券投資を禁じる大統領令により、8月2日から米国人は59社の中国企業への投資ができなくなっている(2021年8月3日記事参照)。

(注3)USCCの報告書では、ナスダック、ニューヨーク証券取引所、NYSEアメリカン(元アメリカン証券取引所)の3カ所となっている。

(藪恭兵)

(米国、中国)

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