中国企業の国外上場への管理強化、域外適用のための法規整備

(中国、米国)

北京発

2021年07月12日

中国共産党中央弁公庁と国務院弁公庁は7月6日、「法に基づき証券違法行為を厳重に取り締まる意見」を発表した。意見では、経済や金融分野で環境が深刻に変化しており、資本市場での違法行為が目立っているとし、資本市場の秩序を守るために厳重な取り締まりをするとの方針を示した。

主要な目標として、2022年までに法に基づき証券違法行為を厳重に取り締まるための法執行と司法体制を整備し、証券分野の違法行為や犯罪の厳罰化を図るとした。

中国外の市場上場に関連する機密保持など管理強化

同意見は、違法行為への対策として、越境管理監督を強化する方針を示した。具体的な措置としては、データの安全、データの越境フロー、機密情報の管理などに関する法律法規を整備する。また、中国企業が国外で証券発行や上場をする際の機密保持や記録の管理を強化する規定を速やかに改定するとともに、国外で上場する企業に対して情報の安全についての主体的な責任を負わせる(注)。

さらに、データを越境提供するための枠組みについても、法にのっとり、対等の原則を前提としつつ、越境監査や管理監督の協力をより深化させる方針だ。また、証券法に関連する域外適用の条項に関連する司法解釈や関連規則を速やかに制定する。法律の域外適用の具体的な条件を具体化し、法執行プロセスを明確化する。加えて、資本市場での国際裁判に係る業務を強化し、外国・地域と中国の司法判決についての相互認証・執行を推進する。

国家インターネット情報弁公室は7月2日、タクシー配車アプリ最大手の滴滴出行に対し、サイバーセキュリティー審査を実施すると発表しており、今回の意見もこの動きと関連していると指摘される(2021年7月9日記事参照)。

匯業法律事務所の李天航シニアパートナーは「滴滴は中国で主要業務を行っている企業のため、全てのデータはまず中国で保存されるが、米国での上場により、データの越境問題が避けられない」と指摘する(「中央規律検査・国家監察委員会HP」7月7日)。

米国の「外国企業説明責任法」の規定によると、米国の証券取引所に上場する外国企業に関して米国公開会社会計監督委員会(PCAOB)が監査を実施できない状態が3年連続で続いた場合、当該企業の証券の取引を禁ずるとしている(2020年12月22日記事参照)。李氏は、この規定にのっとって企業が情報開示を求められた場合、「中国国内での経営状況に関わるデータや重要データ、個人情報を越境させ、米側に提供できるのかという問題が生じる」と指摘した。

中国(深セン)総合開発研究院金融・現代産業研究所の余凌曲副所長は「多くの中国企業が米国市場に上場後に、PCAOBから監査調書の提出を求められる」と指摘した上で、「その中には年次報告書では開示しないデータも含まれる可能性がある」との認識を示した(「南方都市報」7月8日)。

李副所長は、中国の監督管理当局が今後、中国企業の国外上場の際に、上場前と上場後の監督管理体系を整備するとの見方も示した。

(注)2009年施行の「域外での証券発行と上場に関する機密保護と文書管理工作の規定」や2020年3月改正施行の証券法で、中国企業の国外での上場に係る機密保護や関連情報の域外提供に関する規定を定めていた。

(藤原智生)

(中国、米国)

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