トランプ米大統領、ブラジルとアルゼンチンに対する鉄鋼・アルミ追加関税の復活を表明

(米国、ブラジル、アルゼンチン)

ニューヨーク発

2019年12月03日

トランプ米大統領は12月2日、自身のツイッターで、ブラジルとアルゼンチンからの鉄鋼およびアルミニウムの輸入に対して追加関税を課すと発表した。今回の措置の理由として、両国による通貨切り下げを挙げ、同時に米国連邦準備制度理事会(FRB)に対し、利下げによる金融緩和を求めた。ただし、トランプ大統領の発表後、12月2日時点でホワイトハウスなど関係省庁から公式の発表は出ておらず、関税措置の詳細は明らかになっていない。

トランプ大統領はツイッターを通じて、「ブラジルとアルゼンチンは大幅な通貨切り下げを行っており、米農家に望ましくない」とし、「両国から米国に輸入される全ての鉄鋼およびアルミニウムに対する(追加)関税を即時に復活させる」と表明した。米国は1962年通商拡大法232条に基づき、2018年3月から鉄鋼に25%、アルミニウムに10%の追加輸入関税をそれぞれ課している(2018年3月9日記事参照)。ただし、一部の国は適用免除となっており、ブラジルとアルゼンチンも、過剰生産の削減取り組みなどの約束を米国と交わした結果、製品ごとに数量制限の範囲内で追加関税を回避していた。

またトランプ大統領は、今回の表明で、他国が通貨を切り下げてドル高の状況をつくり出すことにより、「米国の製造業者および農家が公平に輸出することが難しくなっている」と述べ、FRBに対して金利引き下げなどの緩和措置を講じるよう求めた。トランプ氏はかねて、FRBが利下げなどの措置に消極的だと批判している(2019年8月29日記事参照)。

トランプ政権が他国の通貨切り下げを根拠に追加関税を課したのは、今回が初めてではない。2018年8月にトルコに対して、鉄鋼・アルミニウム輸入の追加関税を引き上げた際にも、トルコ・リラの下落や2国間の関係悪化を理由に挙げていた(2018年8月13日記事参照)(注)。当時のトルコ・リラは2018年初から4割超下落していた。今回、ブラジル・レアルは2019年初から1割下落し11月下旬には最安値を記録しており、アルゼンチン・ペソは年初から約4割下落している。

他方、今回の措置について、米国が中国と行っている貿易交渉と関連付ける向きもある。ピーターソン国際経済研究所のモニカ・デボレ上席研究員は自身のツイッターで、「今回の措置は中国に絡むもので、ブラジルとアルゼンチンに中国への農産品輸出を減らすように迫る試みの可能性がある。もしそうであるならば、両国は脆弱(ぜいじゃく)な立場に置かれるだろう」と分析した。中国にとって、ブラジルは最大の大豆輸入元で、アルゼンチンからの同製品の輸入も2019年に入り増加している。一方で、米国からの輸入は、米国の対中追加関税に対する中国の報復措置の影響で、大幅に減少している(2019年9月10日記事参照)。

ブラジルのボルソナーロ大統領は、今回の措置について速やかにパウロ・ゲデス経済相と議論し、必要であれば、トランプ大統領と電話協議すると報道陣に述べた(CNN12月2日)。

(注)その後、2019年5月に、トルコとの関係改善などを理由に、追加関税は引き上げ前の水準に戻されている(2019年5月20日記事参照)。

(藪恭兵)

(米国、ブラジル、アルゼンチン)

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