米L1ビザ申請で追加質問が増加、審査長期化の要因に

(米国)

ロサンゼルス発

2019年09月05日

ジェトロは8月22日、米国サンディエゴ郊外でJMA(日系マキラドーラ協会)と連携し、就労ビザに関する法務セミナーを実施した。

講師の野口幸子カリフォルニア州弁護士は、移民局や国務省の審査が厳格化・長期化している実態についてデータを示して紹介した。移民局の統計データによると、L1(企業内転勤)ビザの審査で追加質問が出る割合が、トランプ政権前の2016会計年度の32.1%から、2019会計年度は53.7%と、21.6ポイントも増加している(注1)。

追加質問の内容は例えば、管理職として米国で就労するために必要なL1Aビザの場合、申請者の「管理職」の実態を確認するもので、組織図のほか部下の名前・経歴・業務内容・給与実態などに及び、回答に2カ月以上要することがあるという。なお、移民局によるL1ビザの承認率は、2016会計年度は85%、2019会計年度は72%と13ポイント減少しており、却下の割合が高まっている。

移民局審査の承認後に行われる国務省(大使館)審査でも、国務省の統計データによると、L1ビザの発給率が2016会計年度は83.2%、2018会計年度は82.0%と微減している。移民局審査のないE1(貿易)ビザとE2(投資)ビザの発給率も、2016会計年度はそれぞれ約77%、2018会計年度は約75%と微減している。

ビザ審査の厳格化・長期化(注2)を受け、野口弁護士からは、余裕を持った人材派遣計画を立てること、滞在資格を持つ人を雇用することに加え、永住権(グリーンカード)の取得も選択肢の1つだと解説した。永住権は、日本から来たばかりの人でも申請可能で、雇用ベースのビザと異なり、勤務実態を指摘されるリスクはない。

永住権に関しては、国別限度枠(同じ国に7%まで)を撤廃する法案(H.R.1044)が7月10日に連邦下院を通過し、上院で審査が行われる予定だ。上院には反対の動きもあるが、仮に法案が成立すると、申請者の多いインドや中国、フィリピン、ベトナムの人々の待ち時間が減る一方、これまで1年半~2年待ちだった日本人からの申請が4~5年待ちに延びる可能性があるので、永住権取得を検討している人は早めの申請が望ましいとのことだった。

また、5月からビザ申請時にSNSのアカウント提出が義務化された(2019年6月5日記事参照)が、SNSやEメールは入国審査時にも提示を求められる場合がある。ビザ申請者や出張者は、米国で居住・就労していると疑われる内容を安易に投稿しないよう、野口弁護士は注意を促した。

サンディエゴの日系企業の中には、国境を隔てたメキシコ・ティファナ側の工場に頻繁に往来する駐在員が多いが、そのことがメキシコで就労していると認定され、ビザが更新できなかったり、国境でビザを取り上げられてメキシコ側での居住を余儀なくされたりする例が増加し、経営上の課題となっている。野口弁護士によると、万が一国境でビザを取り上げられて別室に連れて行かれるなどしたら、弁護士や本社に連絡を取りたいと依頼すべきで、質問に対して安易に即答することは避けるべきだという。

(注1)2016会計年度は2015年10月から2016年9月まで。2019会計年度は2018年10月から2019年9月までだが、現時点では2019年6月までのデータ(L1ビザについては6ページ目以降)PDFファイル(外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)が公表されている。

(注2)米国ビザ審査の厳格化・長期化の傾向については2019年7月29日記事2018年2月14日記事2018年2月15日記事も参照。

(北條隆)

(米国)

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