ビザなし渡航者の入国も厳しく審査-入国ビザに関する法務ウェビナー開催(2)-

(米国)

ニューヨーク発

2018年02月15日

米国では、ビザ免除となる電子渡航認証システム(ESTA)を利用した短期出張でも入国審査が厳格になっている。ジェトロがニューヨークの法律事務所RBLパートナーズ(RBL Partners PLLC)のボアズ麗奈弁護士を講師として開催した「米国法務ウェビナー」(オンラインセミナー)報告の後編は、移民局の監査訪問の増加など入国審査をめぐる現状や今後予想される動きと対策について。

移民局の抜き打ち監査訪問が増加

最近の就労ビザの厳格化をめぐる特徴の1つとして、移民局による監査訪問の増加が挙げられる。これまでもH-1B(専門職)ビザ保持者の雇用企業に対しては行われてきたが、Lビザ〔企業内転勤者、ブランケットLビザ(注)を含む〕やE(投資駐在員・貿易駐在員)ビザなどの保持者の雇用企業に対しても、詐欺申請の防止や申請内容の確認を目的とした監査訪問が増加している。最近は、大手企業のみならず、中小企業や米国に進出したばかりの企業への監査訪問も増えている。

移民局による監査訪問は事前通知がなく、監査員の質問にうまく回答できなかったり、追加書類を期限までに提出できなかったりするとビザを取り消されるので、万全に準備を整えておくことが非常に重要だ。最近の監査訪問では、ビザ申請者、その上司およびビザ申請書類にサインした責任者に対する事実確認のほか、企業の事業内容・従業員数、ビザ申請書の役職、職務内容、就労時間、勤務地、年収額などについての質問が多い。

なお、監査訪問を受けるに当たっては、監査員のIDや政府機関の職員である証明書類の提示を求めるほか、監査訪問の目的確認や、監査後に必要に応じて連絡を取るべきと考える。

短期出張者の入国審査でSNSが確認される場合も

2017年9月ごろから、米国入国審査時に質問や取り調べが増えているようだ。最近の傾向としては、フェイスブック、リンクトインなどのSNSや携帯電話のメール、LINEなどを入国審査官に調べられることが挙げられる。これまでは、ビザ申請の面接で申請者のSNSなどが確認されることがあったが、ビザ免除となる電子渡航認証システム(ESTA)を利用する短期出張者に対しても、SNSや携帯電話での発信内容を確認されることが増えている。予定滞在日数が長かったり、頻繁に渡米していたりすると確認対象となりやすいようだ。

携帯電話やメールのパスワードを教える義務はないものの、開示しないと入国審査官の裁量によって入国を拒否される場合がある。また、携帯電話でのやり取りやSNSへの投稿内容が英訳され、その内容によっては、出張や短期滞在ではなく就労を目的としていると解釈される事例もある。

入国拒否の主な理由は就労を疑われることであり、短期出張者であっても、米国での活動の詳細について説明できるよう万全に準備しておくことを強く勧める。一度ESTAでの入国を拒否されると、以降はESTAを利用して渡米する権利を失う可能性が高いので十分に注意してほしい。

ビザをめぐる環境は一層厳しくなる見通し

今後については、雇用ベースの非移民・移民ビザの審査がますます厳格化されることが予想される。特に、毎年4月に新規申請を受け付けるH-1Bビザについては、「専門職」の定義や審査基準の見直しなどが考えられる。また、特にH-1B、L、Eビザについては、企業への監査訪問が既に増えているが、今後もさらに増加することが予想される。

新規就労者の米国での就労資格を確認する移民局のシステム(E-Verify)の利用については、現在のところ一部の州でのみ義務付けられているが、将来的には全米で義務付けられるものとみられる。

加えて、オバマ前大統領が導入した移民法制度がほぼ全て廃止される可能性が高い。例えば、一定以上の投資および雇用創出を行う外国人起業家に発給される就労許可、H-1Bビザ保持者の配偶者であるH4ビザ保持者への就労許可、科学・技術・工学・数学(STEM)の学位を取得したF-1(学生)ビザに与えられる任意実習期間(Optional Practical Training:OPT)の24カ月の就労許可延長などの制度が廃止されるものとみられている。

慎重で戦略的な人事計画・申請準備が重要

進出企業には、これまで以上にコンプライアンスの強化が求められている。また、常に最新情報を入手しながら、柔軟な人事対応体制を整え、時間に余裕を持ってビザ申請手続きを進めてほしい。

例えば、前任者はL-1A(管理職)ビザを取得していても、今後はL-1B(技術職)ビザなど他のビザを申請するなど、戦略的に考えていく必要がある。また、これまでは海外転勤の内示後にビザ申請を進めていたとしても、今後は内示前にビザ取得の可能性を確認したり、内示のタイミングを見直したりすることが望ましい。

既にビザを取得している米国駐在員についても、慎重かつ時間に余裕を持ってビザ更新手続きを開始すべきだ。場合によっては、ビザ更新よりグリーンカード取得を進める方が良いケースも最近では増えている。

(注)関連会社数や従業員数などの資格基準を満たす企業に対して一定数の枠が与えられるLビザ。

(渕上茂信)

(米国)

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