就労ビザの審査基準や解釈に厳格化の動き-入国ビザに関する法務ウェビナー開催(1)-

(米国)

ニューヨーク発

2018年02月14日

米国で事業を円滑に進める上で、ビザの取得は重要なポイントの1つだ。緻密なビジネスプランを立てても、ビザを取得できずに見直しを余儀なくされることもある。さらに、トランプ政権発足後、ビザを取り巻く環境は厳しさを増している。ジェトロは1月16日にニューヨークで、地元の法律事務所RBLパートナーズ(RBL Partners PLLC)のボアズ麗奈弁護士を講師に、「米国法務ウェビナー」(オンラインセミナー)を開催した。講演の概要を2回に分けて報告する。前編は最近のビザ審査の傾向や新たな動きについて。

大統領令が入国の厳格化・取り締まり強化の背景に

トランプ大統領は2017年4月に、「バイアメリカン・ハイヤーアメリカン」の強化を目指す大統領令に署名した(2017年4月27日記事参照)。これを背景として、外国人労働者の入国の厳格化および雇用に関する移民取り締まりの強化がなされている。8月には、国務省のビザ審査手続きマニュアル(Foreign Affairs Manual:FAM外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)に「米国人労働者を保護する」との文言が追加され、ビザ申請の面接の際には申請者が就労にふさわしい理由などを質問されるケースが増えている。

最近の傾向としては、2017年後半からの、ほぼ全種類のビザについて審査の厳格化、追加で要請される資料の大幅な増加、審査期間の長期化が挙げられる。法改正は行われておらず法律要件は変わっていないものの、審査基準や解釈が大きく変わっており、注意が必要だ。

管理職や専門職の要件が変更

L-1A(管理職)ビザの「管理職」という要件について、これまでは3人程度の部下がいれば満たせたが、移民局による最近の解釈では、4~5人の部下がいても、部下の学歴、職歴、職務内容が相応のレベルでなかったり、ビザ申請者に相応の権限や決定権がないとビザ取得は難しくなっている。追加で要請される資料として多いのは、部下の氏名、肩書、学歴、職歴、年収額、就労時間、管理業務を果たした証拠として実際にビザ申請者が契約した契約書、部下の評価レポートのコピーなどが挙げられる。

L-1B(技術職)ビザについてはこれまで、日本の親会社で10年程度の勤務経験があれば要件を満たせるケースが多かったが、最近では、勤務経験に加えて、高度な技術の開発に直接関わっていたり、特許の申請用紙にビザ申請者の名前が含まれる程度でないと「技術職」の要件を満たすのが難しくなっている。追加で要請される資料としては、ビザ申請者が過去に受けた全ての研修の詳細とその証明、ビザ申請者が特別に有する知識や技術の証明などがある。

E2(投資)ビザについては、相当額の投資を米国で行う実態のある企業であること、米国の経済発展に貢献するような規模の事業を運営することなどが法律要件となっている。「相当額」については、日本の米国大使館・領事館では、これまで15万ドル程度でビザが発給されていたが、最近では20万ドル投資していても相当額ではないと解釈されることも多い。また、これまでは従業員3~4人の小規模企業でもビザを取得できることが多かったが、最近では実態のある企業と認められない、あるいは米国の経済発展に貢献する規模ではないと見なされることも増えている。特に進出したばかりの企業に対しては、非常に厳しく判断される傾向にある。

H-1B(専門職)ビザについては、2017年6月ごろから追加資料の要請が急増しており、その頻度は2016年と比べて2倍以上となっている。また、移民局の統計によると、2017年11月の申請却下率は17.6%と、2016年11月の7.7%の2倍を超えている。特に「賃金」に関して追加資料の要請が急増している。求められる賃金は、勤務地や職種などによって異なるが、初級レベル職の賃金での申請が非常に問題となっているようで、可能な限り賃金を高く設定できないか検討するのが望ましい。また、例えばコンピュータプログラマー職は、学士号を必要とする専門職とは認められないとの見解が移民局から新たに示されるなど、「専門職」の定義にも変化がみられる。

時間に余裕を持って慎重な準備が必要

ビザ審査期間について、3週間程度で取得できていたようなビザであっても、追加要請が増えたことによって2~3倍の時間がかかることもある。これまでより余裕を持って準備を進める必要がある。

ビザ申請が却下された場合、対応可能な却下理由であればすぐに再申請することが可能だ。ただし、ビザ申請者の実績や経験が不足しているような場合は少なくとも6カ月以上の時間を空けるのが現実的だ。一度申請が却下されると、ビザ免除となる電子渡航認証システム(ESTA)の質問事項において、ビザ申請を却下されたことがある旨を回答することになり、かなり高い確率でESTAでの承認が得られなくなる。現在のところビザ却下の質問には期限が設けられておらず、結果としてB(商用観光)ビザを取得する必要が永久的に生じてしまうので注意が必要だ。

ビザ更新を新規申請と同様に審査

これまでビザ延長申請については、移民局のガイダンスが長年にわたり適用されていた。雇用者や職務内容、雇用条件に大きな変更がない場合は元の申請結果を尊重すべきというものだが、2017年10月に公表された移民局のガイダンスによると、H-1B、L(企業内転勤者)、E(投資駐在員・貿易駐在員)、O(特殊技能者)ビザを含むほぼ全ての非移民ビザを対象として、延長申請については新規のビザ申請として審査することとされ、追加要請や却下の対象となっている。

移民ビザ(グリーンカード)の申請に際しては、これまで米国内の企業を通じて申請する場合はほとんど面接が免除されていたが、2017年10月1日以降、全ての申請者に対して面接が義務付けられることになった。面接における質問は会社や雇用に関するものが多く、現時点ではそれほど厳しい質問や審査はされていないようだ。ただし、およそ1年半から2年程度だった準備開始日から取得までの期間が、今後は長引くことが予想される。

(渕上茂信)

(米国)

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