センシティブ品目の取り扱いに注視する必要-IMMEX政令が改正-

(メキシコ)

米州課、メキシコ発

2016年01月22日

 経済省は1月6日、「輸出向け製造・マキラドーラ・サービス業振興プログラム(IMMEX)政令」の改正政令を公布した。複数種類あったセンシティブ品目の別添リストが統合され、一時輸入部材の国内滞留期間が18ヵ月に統一されるなど簡素化した部分がある一方、センシティブ品目の一時輸入に際して保証金制度が導入されるなど、規制強化につながる内容も含まれる。保証金制度などの詳細に関しては、今後官報公示される経済省貿易細則の改正内容を注視する必要がある。

2010年末以来の大幅改正>

 IMMEX200611月から、それまでの「マキラドーラ(輸出を条件とした保税委託加工)制度」と「輸出のための一時輸入措置(PITEX)」を統合するかたちで適用されている(2006年11月9日記事参照)IMMEXを活用すれば、輸出製品などに用いる部品、原材料、機械設備などの関税および付加価値税(IVA)の支払いを繰り延べ(保税)することができる。ただし、北米自由貿易協定(NAFTA)やWTOのルールなどに基づき、NAFTAEU、欧州自由貿易連合(EFTA)諸国への製品輸出を条件とする部品・原材料の輸入や、輸出相手国にかかわらず機械設備の輸入にかかる関税については、部品・原材料は最終製品輸出後60日以内に、機械設備は輸入時に支払う義務が生じている。従って、関税減免の目的では産業分野別生産促進プログラム(PROSEC)や自由貿易協定(FTA)を用いることが多く、IMMEXは主に輸入時のIVAの支払い繰り延べを目的に利用されている。

 

 IMMEX政令は20085月、201012月と2回改正されているが、今回は201012月以来の大幅改正となる。主なポイントは以下のとおり。

 

1)一時輸入滞留期間の統一

2)センシティブ品目の追加

3)センシティブ品目取り扱い要件の変更

4IMMEX登録要件の追加

5)委託製造(サブマキラ)オペレーション要件の追加

6)プログラム登録取り消し要件の明確化と追加

7)他の法規との整合性の確保

 

 改正政令の発効日は、官報公示の30日(暦日)後(25日)だが、(2)および(3)のセンシティブ品目に関する規定については、改正政令の発効後60営業日以内に官報公示される「経済省が定める貿易に関する一般規則・基準を定める省令」(以降、経済省貿易細則)の改正省令で定められるため、同改正省令の発効日の15営業日後に効力を生じる(政令改正付則第1条)。

 

<一時輸入滞留期間を18ヵ月に統一>

 (1)について、IMMEX制度を利用して一時輸入した商品を一時輸入の状態で保持できる滞留期間はIMMEX政令第4条に基づき、輸出製品に使用される部品・原材料などについては18ヵ月と定められているが、センシティブ品目に指定されている別添IBIS(一部の糖類)、別添ITERHS72類の鋼材)、別添II(中古の空気タイヤなど)、別添IIIHS5063類に分類される繊維製品)については、それぞれ指定された滞留期間(6ヵ月、9ヵ月、12ヵ月)が適用されていた。

 

 今回の改正に基づき、複数種類に分かれていたセンシティブ品目をまとめてセンシティブ品目として別添IIA(糖類)、B(鋼材、鋼管)、C(繊維製品)、D(アルミ・同製品)、E(くず、廃棄物)とし、滞留期間を統一して18ヵ月とした。

 

 (2)については、センシティブ品目を別添IIとして一本化する過程で新たな品目を追加している。改正前の政令別添ITERに示された鉄鋼(HS72類)と改正後の別添IIBを比較すると、HS72類の鋼材は全て同じだが、改正後はHS73類の鋼管が対象となっている。また、鉄だけでなくアルミ(別添IID)、くずや廃棄物(E、ニッケル・アルミ・鉛などのくずや廃棄物)が新たにセンシティブ品目リストに加わっている。くず、廃棄物関連をセンシティブリストに入れた背景には、「リサイクル関連業者にサービスIMMEXおよび認定企業登録をさせ、不正取引の監視を強めたい意向がある」(現地貿易コンサルタント)とみられる。

 

<保証金制度を新たに導入>

 (3)については、IMMEX政令第5条で「大蔵公債省に事前協議した上で経済省として別途省令にて決定すべき項目」が規定されているが、今回の改正で同条II項の「別添IIIの繊維関係(HS5063類)についての一時輸入における最大輸入枠、および輸入に関わる特別要件」という項目が削除される代わりに、新たにIV項「別添II(センシティブ品目リスト)の商品を一時輸入する際の義務履行を担保するための保証金制度」が加わった。同制度についての詳細は政令では規定されておらず、経済省貿易細則の改正を待つ必要がある。なお、第5I項に大きな変更はなく、センシティブ品目を一時輸入する場合の(保証金以外の)特別要件についても、経済省が別途省令で決定することになっている。

 

 今回の改正以前は、経済省貿易細則の別添3.3.12に基づき、政令(改正前)の別添ITER(鋼材)について、第5I項の特別要件を満たさなければならない企業は、鋼材(HS72類)を一時輸入して鋼材のHSコード(72類)のままで再輸出、あるいはバーチャル輸出(注)する企業だけだった。従って、熱延鋼板フラットロールを一時輸入して切断加工し、自動車メーカーや自動車部品メーカーに鋼材(HS72類)として販売する鉄鋼サービスセンター(通称コイルセンター)などのサービスIMMEX企業には特別要件が適用されるが、HS72類の鋼材を一時輸入してHS8708項などの自動車部品に加工して再輸出する、製造IMMEX企業には適用されていなかった(2012年6月18日記事参照)。改正政令を読む限りでは、サービスIMMEXか製造IMMEXかにかかわらず特別要件や保証金制度が適用されると解されるため、経済省貿易細則で詳細がどのように規定されるか注目される。

 

 また、改正政令第5条の最後の段落では、「サービスIMMEX企業は別添IIの商品を扱うことができない。ただし、認定企業スキームを取得している、ないしは別途規定する特別要件を満たす場合を除く」と規定された。従来との大きな違いは、改正前は別添IBIS(糖類)および別添ITER(鋼材)についてのみサービスIMMEX企業形態では取り扱いができなかったが、改正後は別添IIのセンシティブ品目全てが規制対象となると解されるため、従来は別添IIおよび別添IIIに分類されていた中古タイヤなどや繊維製品(HS5063類)についても、国税庁(SAT)税関総局が税関法100A条に基づき認定する認定企業(2011年12月26日記事参照)を除けばサービスIMMEX形態では取り扱いができなくなる。これについても、今後公布される経済省貿易細則の改正において、何らかの救済策が設けられるものと思われる。特に繊維製品については自動車産業でも素材として用いられることもあり、進出日系企業への影響が懸念される。

 

<投資計画の提出を全ての新規登録申請に義務付け>

 (4)については、政令第11条でIMMEXプログラムの登録要件を定めている。従来はサービスIMMEX形態で登録する企業およびセンシティブ品目を取り扱う企業にのみ求められていた「投資計画」の提出を、改正政令では全ての新規登録に義務付けた。投資計画には、以下の情報を盛り込む必要がある。

 

IMMEXオペレーションを行う施設の見取り図や場所(住所)、写真

○建物や機械設備への投資額詳細

○直接・間接的に雇用する従業員の数

○必要に応じて、2年間の輸入総額あるいは輸入見込み額

○(今後)2年間の製品・サービス販売数量・金額の見通し

○センシティブ品目を輸入する場合は、経済省貿易細則の基準に従った投資実行スケジュール

 

 (5)については、IMMEX登録企業が事前に経済省に委託先の登録を行うことにより、非IMMEX企業への委託製造(通称「サブマキラ」)が可能だが、サブマキラを行う際の委託先の登録要件として、従来の(1)有効な連邦納税者登録(RFC)、(2RFCに関連付けられた税務上の住所およびオペレーションを行う施設の住所、(3)所得税法上の法人あるいは企業活動を行う自然人であること、に加え、(4SATの税務義務履行証明(通称Opinion Positiva)および(5)租税債務や税務上の違反がある企業としてSATが公表するリストに載っていないことが追加された。

 

 (6)については、IMMEX登録が取り消される事由の定義を明確化するとともに、新たな事由を1つ追加した。追加された事由は、一時輸入した商品をSATが定める規則に基づき他のIMMEX企業にバーチャル輸出する、あるいは委託製造先にサブマキラに出す場合、その商品が物理的に引き渡されたことを証明できない場合だ。

 

SAT貿易細則との整合性を確保>

 (7)については、IMMEXプログラムに関連する複数の法規、具体的には所得税法、税関法、IMMEX政令、経済省貿易細則、2015年度の貿易に関する一般規則(SAT貿易細則)の間で混乱や矛盾を排除するための調整が行われた。最も重要なのは、部門別輸入業者登録の登録義務の免除規定をIMMEX政令から削除したことだ。

 

 改正前のIMMEX政令の第6BISI項は、IMMEX登録企業に部門別輸入業者登録義務を免除していた。しかし、20153月以降、メキシコではアンダーバリューなどの違法輸入を監視する目的でSAT貿易細則などに基づき、繊維製品や履物の輸入に際し、部門別輸入業者登録を義務付けている(2015220日記事参照)IMMEX登録企業であっても同登録が義務付けられるため、今回の改正政令で第6BISI項を削除した。

 

 このほか、法律と政令、規則の整合性を保つための措置としては、所得税法上のマキラドーラオペレーション(2014年1月7日記事参照)の要件について旧政令の第33条を削除し、所得税法第181条および第182条の規定に一本化した。さらに、IMMEX企業に対するIVA還付迅速化の恩典については、以前はIMMEX政令第34条の2番目の段落で、IMMEX登録企業にはIVAの還付を20営業日以内に行うこと、さらに認定企業の登録がなされているIMMEX企業には5営業日以内に還付することが定められていたが、この段落は削除された。背景には、2013年末の税制改正に基づき、201511日以降はIMMEX登録企業でもIVAに関する特別な認定を受けた企業以外はIVAが保税にできなくなり(2014年1月30日記事参照)、同認定のモダリティー(AAAAAA)に応じてIVA還付期間に差を設けているからだ(A20営業日、AA15営業日、AAA10営業日)。今回の改正により、IVAの還付迅速化については各モダリティーの要件と恩典を定めているSAT貿易細則に規定を一本化したことになる。

 

 なお、SAT貿易細則に規定されているのみで、税関法にもIMMEX政令にも規定されておらず、法的安定性が問題視されていた規制として、バーチャルオペレーションで調達した一時輸入部材に関する滞留期間の短縮化がある。20101224日付官報で公示されたSAT貿易細則の改正に基づき、自らが国外から一時輸入したのではなく、他のIMMEX企業からバーチャル輸入調達した部品・原材料の一時輸入滞留期間は18ヵ月から6ヵ月に短縮されている(2011年2月15日記事参照)。今回の改正では第4条の最後に1段落を追加し、バーチャルオペレーションにより調達した一時輸入部材の滞留期間は6ヵ月であることを明記した。

 

 今回の政令改正でセンシティブ品目の一時輸入滞留期間については18ヵ月に統一されたため、部品・原材料の一時輸入滞留期間については、バーチャル輸入調達した部材のみ6ヵ月、通常の一時輸入部材は18ヵ月となる。なお、通常の一時輸入部材は「IN」コードで輸入申告し、バーチャル輸入部材は「V1」コードで申告するため、申告コードの違いにより保税在庫の滞留期間を管理することが可能だ。なお、税関法第100A条が定める認定企業の場合、「IN」「V1」の違いにかかわらず、一時輸入滞留期間は36ヵ月となる(2015年度のSAT貿易細則3.8.8IV、および同4.3.22Ic)。

 

(注)IMMEX登録企業が他のIMMEX登録企業に対し、加工後の製品を一時輸入の状態で移転するオペレーション。移転元の企業にとってはバーチャル輸出、移転先の企業にとってはバーチャル輸入扱いとなる。

 

(中畑貴雄、中島伸浩)

(メキシコ)

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